true tears 第9話感想&備忘録「なかなか飛べないね」

 今回は、全ての登場人物が「同じスタートライン」に立つ、true tearsという物語の「本当の始まり」の話でした。
 今まで「世界」を恨む程に不幸せだった比呂美さんがたった一夜で「世界」の美しさ、優しさに気付いて、価値観の一新を経験したのと入れ代わるように、今まで「世界」に感謝している程に幸せだった乃絵さんが不幸せの渦中に叩き込まれます。
 眞一郎君も自分を騙しながら歩んだ結果、いざ「崖の上から飛ぼうとし」ても、まだ「今の状態では飛べない」と気付きます。そして「自分の所為で眞一郎くんが飛べなくなっている」事に気付いた乃絵さん。

「眞一郎、あなたは飛べるの。
自分で分かってないだけ。
でも、そうね、あなたが飛ぶところはここじゃない。」(石動乃絵)

 今回、眞一郎君を飛ばしてあげる為に自分から身を引いた乃絵さんですが、あいちゃん、比呂美さん、石動純君、三代吉君、眞一郎君と同じ「好きでいられない状況」、「自分の気持ちに嘘を付いても苦しいだけ」を追体験している事になります。

 私は、ここが「true tears」の本当のスタートラインだと思います。

 物語開始時点では全員が「遠くも近くもない距離」を保つ微妙なパワーバランスの中で日々を過ごしていたのが、眞一郎君と乃絵さんが出会った事で「綻び」が生じ、石動純君とあいちゃんによって「破壊」され、そして全員が自分の「本音」と「建前」をどちらも選べるようになった状態になった今は、登場人物の誰もが「関係性がゼロ」になり、「新しい関係性」を構築出来る準備が整った事になりますから。(>参考 「アニメ版「true tears」はエロゲのアンチテーゼ、「アンチヴィジュアルノベル」である。」

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比呂美さん

 一度破滅の一歩手前まで踏み込んだ事がきっかけとなって、「自分を心配してくれる人がいる」、「世界はこんなに優しかった」という事に気付いて、色んな憑き物が一遍に取れた事で、眞一郎君の「優しさ」に素直に謝罪と感謝を言えるようになった比呂美さんが素敵です。

「ごめん…」(湯浅比呂美)
 ↑タクシーに乗って駆けつけた眞一郎君に対して

「あたし、バカみたい。心配してくれて、ありがとう。」(湯浅比呂美)
 ↑自分を心配して母親から守ろうとしてくれた眞一郎君に対して

 また、比呂美さんの周囲も優しかった。
 周りから白眼視する中で気遣ってくれる親友の朋与さん、比呂美さんにとって今一番必要な事を察して見守ってくれているバスケ部のキャプテンと部員のみんな。
 そして、眞一郎君の母親も含めた仲上家が比呂美さんを守ってくれる事に気付いた。


 あんなに嫌だった「世界」が、たった一夜で暖かいモノに一変した瞬間です。


 死んだような目でパソコンに向かっていた比呂美さんが聴いていた曲は、眞一郎君のお母さんも好きな曲。その曲を聴いているのは仲直りのメタファー。

「あら?
あれ、昔、よく聞いたわ。好きなの?」(眞一郎の母)
「ええ。」(湯浅比呂美)

 眞一郎君のお母さんと買った「アイスクリーム」について楽しそうに語る比呂美さん。
 多分、「アイスクリーム」は、「比呂美さんが嫌いだった」筈の「雪」と通じるものがあり、比呂美さんが「雪」をもう一度「好き」だと言うイベントへの足場固めといった所でしょう。


 あと、序盤でタクシーで駆けつけた眞一郎君の顔が見えないように演出されていたんですが、これは比呂美さんの視線と一致しているカメラワークで、比呂美さんにとっても、視聴者にとっても、比呂美さんに近づくまで「眞一郎君は一体どんな気持ちなの?」という事を印象づけておいて、比呂美さんを抱きしめた瞬間に、「ああ、眞一郎くんはただ安心してるんだ。」というカタルシス的に緊張の解消をしている演出が素晴らしかったです。

乃絵さん

 比呂美さんとは対照的に、今まで順風満帆だった乃絵さんは、一気に転落。比呂美さんと入れ代わるように厭世観のど真ん中に落ちていきます。

「乃絵が好きだって、ここに書いてくれたのに。」(石動乃絵)

 乃絵さんが前に眞一郎君に地面に書かせた「告白」がどこに行ったか分からない。縋りたいのに「好き」の在処が分からないのが辛い。

 あの「告白」はこういう風に使うガジェット。上手い。

眞一郎君

 「比呂美さんが好きだ」という自分の気持ちを抑えつけて、乃絵さんと付き合い、「これでいいんだ…」と自分の進む道は間違っていないと言い聞かせていたのに、心は正直なもので、壁にぶち当たってしまうワケです。
 これは、あいちゃん達が辿った「自分の気持ちに嘘を付いても苦しいだけ」を表していて、「本当の気持ち」でないと、いつかボロが出てしまうという事のメタファー。

「俺、やっぱり飛べそうにない。」(仲上眞一郎)

「雷轟丸、なかなか飛べないね。」(石動乃絵)
 
「うん、雷轟丸はうすす感じてるんだよ。
ホントは、10メートルの土手から飛んだってどこにも行けない事。
でも、知らない振りをしてる。」(仲上眞一郎)
 
「どうして雷轟丸はホントの事を見ないの?」(石動乃絵)
 
「きっと、怖いんだよ。」(仲上眞一郎)
 
「怖い?」(石動乃絵)
 
「自分がただのニワトリだって事が分かってしまうのが怖いんだ。
雷轟丸は、ホントは最初から自分は飛べないって知ってるんだよ。」(仲上眞一郎)
 
「それ、眞一郎の事?」(石動乃絵)

 そして、乃絵さんが眞一郎君に別れの言葉を告げて初めて見える空からの眺め。
 ここの演出が今回一番見事だと思った所なんですが、ここで初めて「飛んでいる鳥の視点」で眞一郎君達がいた場所の俯瞰の風景が映されます。
 防波堤はまるで飛行機の滑走路のようにまっすぐ続いているのに、道は行き止まり。

 つまり、この防波堤は「飛べる」と「飛べない」の境界。

 「飛べる」人は、この防波堤の行き止まりなんか気にせず空に飛び立って行けるし、「飛べない」人は、防波堤の行き止まりで止まってしまう、認識の転換で分岐する「一本道の分かれ道」。

「眞一郎、あなたは飛べるの。
自分で分かってないだけ。
でも、そうね、あなたが飛ぶところはここじゃない。」(石動乃絵)

 乃絵さんはこう言ってましたが、「眞一郎君が『飛ぶところ』はここしか無い!」と如実に物語っているんですよね。

 やばい、美しすぎて泣けてきた。

石動純君

 「現実感」が薄れているという事もあるものの、妙に落ち着いて暖まで取ってる比呂美さん。
 バイクをおシャカにされたのに、至って冷静な石動純君。

 妙に似た者同士なんですよね。お似合いじゃないですか。

「バイク、燃えちゃったね。」(湯浅比呂美)
 
「ああ。
どうしよう、まだローンが一杯残ってたんだぜ。」(石動純)
 
「何か、綺麗。」(湯浅比呂美)
 
「ママチャリでも買って、バイトして…あー、参ったな…。」(石動純)
 
「ガソリンって引火しても爆発しないのね。」(湯浅比呂美)
 
「当たり前だろ。そんなの映画の中だけだよ。
燃えるだけ。
いっそドカーンとかなると、諦めも付くのにな。」(石動純)

 「いっそドカーンとかなると、諦めも付くのにな。」と石動純君が言っているんですが、これは彼らの人間関係を象徴していて、石動純君も比呂美さんと同じように、「好きなもの好きでいられなくなる」なら、何もかも壊れてしまった方がいいと思っていたんですが、先にバイクが壊れてしまったんです。
 この壊れたバイクは、二人が歩もうとした「破滅の選択肢」の代わりに壊れたモノなので、このバイクの修理によって、二人が歩む「新しい選択肢」を象徴するイベントが発生するのだと思います。

三代吉君

「ありがとな。」(仲上眞一郎)
「俺達、親友だろ。」(野伏三代吉)

 眞一郎君の所為で散々なのに、それでも眞一郎君を「親友」だと言える三代吉君がいいヤツ過ぎます。
 わざわざ「親友」と口にした時点で、自分に言い聞かせている面はあるんですが、だからこそ一層、三代吉君がいいヤツなのが強調されて良かったです。

 早くあいちゃん、三代吉君の所に帰ってきてくれないかなぁ。

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次回予告

 true tears 第10話「全部ちゃんとするから]

おまけ

 先回の次回予告で釣られた人は挙手!

 はーい!

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 ……

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 …スタッフども、よくも釣りやがったな!コンチクショー!(誉めてます)