BLUE DROP〜天使達の戯曲〜第2話感想「Lavandula(疑念)」

 今話を観て、主要な登場人物達には二面性があるのが印象的でした。
 例えば、主人公の若竹マリさんは、極めて積極的な面と極めて消極的な面があるワケです。
 積極的な面は、初めて友達になった香月みち子さんには天使のような笑顔を向けますし、千光寺さんには、不信感を隠せないものの惹かれずにはいられないという面。一方で、他のクラスメイトに話しかけられても、千光寺さんファンクラブの面々に睨まれてもまるで興味を示さないワケです。

「ミッチー!」

 千光寺さんは若竹さん意外には全く興味がなくて、若竹さんに対しては殺意を抱いたり、「あの事故」の為に後ろめたい所があったり、でもそれだけじゃなくて、それ以上に何か気になっているワケです。

「どうか・・・している・・・。」(萩乃)

 一方で他の生徒には極めて外面のいい優等生を演じています。

 香月さんも、引っ込み思案な性格かと思えば、とっつきにくい若竹さんに色々と良くしてくれたりと、芯が強い所が覗くすごい子です。

「マリさん・・・、いつか、思い出せるといいですね。」

 しかも、ここで「若竹さん」じゃなくて「マリさん」と、あくまで自然に呼んでくれる所、これがこの娘の優しさですよ。ヤバイ、ミッチー大好きだ。
 多分この娘は、自分がどんなに綺麗な存在なんだか意識してないんだろうなぁ。

本編感想

 ところで、この二面性というのは、第一話のサブタイトル「Hydrangea」が「水の器」と呼ばれていたんだけど、実際は花言葉の「心変わり」、「裏切り」や、紫陽花が持つ二面性で既に提示されていたワケです。

 タイトルの「Hydrangea」というのは紫陽花の事で、主人公若竹マリの実家には赤の紫陽花、寮の部屋には藍色の紫陽花が飾ってありました。因みに、土壌がアルカリ性なら藍色、酸性なら赤色になります。

 この描写は、環境が変わった事を表すと解釈すればいいのでしょうか?

 さて、紫陽花は、咲き始めから咲き終わりに掛けて色が濃くなる事から、日本では「浮気」、「心変わり」、「裏切り」の象徴とされて来ました。西洋の花言葉を調べてみると、「強い愛情」、「移り気なこころ」、「一家団欒」、「家族の結びつき」だそうです。また、紫陽花は花に見える部分が萼であったりと、中々味のある花です。

 ここから連想されるのは、「嘘」、「二面性」という言葉。主人公はよくも悪くも単純なので嘘や二面性とはほど遠いですが、萩乃さんの方は極めて「嘘」の含有率が高くて二面性を地で行っています。

http://d.hatena.ne.jp/AlfLaylawaLayla/20071008/1191825263

 今回のサブタイトル、「Lavandula(ラベンダー)」は「疑念」と呼ばれていましたが、花言葉は他にも沢山あって、「あなたを待っています・期待・承認・優美・豊香・不信・沈黙・私に答えて下さい」と、こんなに有るワケです。

 このメタファーは、花言葉には沢山意味があって、サブタイトルで提示された「疑念」は、登場人物達の表面上の性格の奥に本当の性格があるのと同じで、表面ではそう見えているだけで、「Lavandula」が意味するのは、「疑念」は表面だけで、本当の意味は、その他沢山、「あなたを待っています・期待・承認・優美・豊香・不信・沈黙・私に答えて下さい」のどれか、または全部で、表面からは推し量れないという意味だと思います。

登場人物 ラベンダーの花言葉
表面上の性格 疑念
本当の性格 あなたを待っています・期待・承認・優美・豊香・不信・沈黙・私に答えて下さい

 また、今話、学校で朗読されていた「雨月物語」の「菊花の約(ちぎり)」の段にも二面性があって、一面では死を賭した男同士の友情を土台とした信義のお話だと取れるんですが、主人公丈部左門や赤穴宗右衛門の挙動が何かおかしい事が、最後の尼子経久の「咨軽薄の人と交はりは結ぶべからずとなん」という言葉で一気に畳みかけるように分かってくる話なワケです。

 以下のブログでその辺分かり易く説明してくれてます。お薦め。

つまり、これは、信義を貫く男などとは聞いて呆れる、まったくあべこべな「軽薄の人」赤穴宗右衛門を兄と慕い、ひとり突っ走った熱血青年・丈部左門の空回りの物語といえるでしょう。

http://d.hatena.ne.jp/hananusubito/20070616

 この「雨月物語」の「軽薄な人」は読み手のレベルで色んな解釈があり得り、それ自体がメタファーになっているようなので、ここでは若竹さんと千光寺さんが、丈部左門と、人ならざる身となった(と少なくとも丈部左門は思ってる)赤穴宗右衛門のメタファーというよりも、二人の世界に入り込んで世界を壊してしまう危うさや、読み手の誤解・思考操作によって隠れてしまった「真実」がある事のメタファーと捉えたいと思います。

 そして若竹さんは、その気付かなくてもいい事が有る事に無意識で気付いている節があるんです。

「若竹って、どうもピンと来ないのよね。
マリって名前は誰かに呼ばれてたような記憶がうっすら有る・・・・・・ような記がするんだけど。」

 記憶はおぼろげにあるけど、若竹さんはそれを「思い出してはいけない」と思っているみたい。

「でも私、記憶なんか戻らなくてもいいって思ってたの。
おばあさまと二人で静かに暮らしていけたらそれでって。」

 でも、それは時の流れが許さなかった。偶然か必然か、若竹さんと千光寺さんは出会ってしまった。もしかしたら出会わなかった方がお互いに幸せだったかも知れません。死人のように日常を送りながら朽ちるに任せていたら良かったのかも知れません。

 でも、二人は出会った。そして若竹さんにも、千光寺さんにも変化が現れてきます。若竹さんは元々の明るい性格を取り戻して脱ひきこもりの道を邁進しながら、千光寺さんの事を知っていき、千光寺さんは若竹さんの存在で今まで必死に隠蔽してきた仮面を無理矢理剥がされて行くのです。
 それと、若竹さんに接触した千光寺さんの異常な反応は、「出会ってはいけない存在」とか、「愛の障碍」という意味が有るんじゃないかな。

「嫌いじゃないよ。ミッチーみたいに面白い子もいるしさ。」
「本当にいろんな人がいるよね。」

「萩乃はさ、完璧すぎるんだよ。揺れが無いって言うかさ、あいつがあんな風に何かを気にするの初めて見たよ。」

次回予告

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