true tears 第12話感想&備忘録「何も見てない私の瞳から…」

 自分が気持ちに気付かなかったからあいちゃんを傷つけた。
 自分が態度で示さず何も「決め」なかったから比呂美さんを傷つけた。
 自分が現実から逃げて何も「決め」なかったから比呂美さんを傷つけた。

 だから、今が「決断の刻」です。

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本編感想・・・に代えてメタ的な話

 仲上眞一郎には二つの悩み事がありました。それは「恋愛」と「将来」についてです。
 そのきっかけというのは、「恋愛」では「比呂美さんとの関係」と「乃絵さんとの関係」のどちらかの「選択」を迫られている状況が一つ目。そしてもう一つ、「将来」では「絵本作家になれるのか?」という不安。
 つまり、物語としては、「恋愛」と「将来」が「決める」というキーワードで一括りにされて合流を果たし、同時に「物語世界」と「絵本世界」が「決める&飛ぶ」というキーワードで合流を果たし、それが今、怒濤の勢いで「決断」を迫っており、眞一郎自身も「決めなくてはいけない」と決断するワケです。

 まずは現実世界の状況。

恋愛 「分からない」を克服して二人のうちどちらを選ぶか決める
将来 「不安」を克服して「絵本作家」を目指すか決める

 もう一つは絵本世界の状況。

絵本世界の地べた 「恐怖」を克服して飛んだ
絵本世界の雷轟丸 「恐怖」を克服して飛ぶ

 それらをメタ的に見るとこんな状況。

物語世界 「分からない/不安」を克服して「決める」
絵本世界 「恐怖」を克服して「決める」

 つまり、全てが対句をなしており、つまり、「true tears」という物語においては、「分からない」、「不安」といったモノは「恐怖」と同一のものであり、「飛ぶ」という事は「決める」という事と同義であったと言えると思います。つまり、物語のテーマとしては、

 「真実」を知り、「現実」と向き合った上で「決める事(=飛ぶ事)」

なのではないでしょうか。

 そして、忘れてはいけないのが、先回矛盾から暴露されたように乃絵が当初抱いていた「飛ぶ」の意味は「非現実への逃避」でした。

 乃絵さんは涙を流したい。でも流せないから、「飛べる存在」の「本当の涙」を拭って、その「本当の涙」を貰おうとしていた―――というのが乃絵さんの主張なんですが、乃絵さんのおばあちゃんがそうだったように、「飛べる存在」こそが「涙を拭う存在」なんです。それなのに、その存在から「涙」を流して貰うのはおかしいのです。
 だから、乃絵さんが「飛べる存在」に求めているのは、恐らくは「この地上には悲しい事が、辛い事が沢山ある」から、「乃絵さん自身の涙を拭ってくれる存在」によって乃絵さん自身は流せない「涙」を天空に運んで貰う事に他なりません。けれど、乃絵さん自身はこの事に気付いていなくて、自分自身に「涙を流さない」という「呪い」を掛け、自分にとっての「大切な人」にすら結果的に「呪い」を掛けてしまっているんです。

http://d.hatena.ne.jp/AlfLaylawaLayla/20080320/1206015118

 しかし、それが今や「現実への飛翔」に上書きされる事によって、「乃絵さんと比呂美さん」、「地べたと雷轟丸」、「恋愛と将来」、「現実世界と物語世界」という、あらゆる項がすべて同一のモノに統一されて「答え」が出されようとしているのです。いよいよクライマックスです。

仲上眞一郎(=地べた&雷轟丸) 「逃避」をやめて「現実」と向き合い、遂に「飛んだ/決断した」
石動乃絵 「決断」を迫られている事は知っているが「逃避」
湯浅比呂美 眞一郎に縋る事で「逃避」
石動純 「乃絵という辛さ」から「逃避」

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仲上眞一郎

 「自分と同じ『飛べない』存在」だったのに、「現実と向き合う」という意味で既に飛べていた地べたに導かれ、「決める/飛ぶ」事を決断します。

 そして、再び「地べた」に追いつくべく、「物語世界で選ぶ事を『決めた』眞一郎」と「絵本世界で飛ぶ事を『決めた』雷轟丸」がシンクロして、あらゆるモノを吹っ切って飛ぶ演出は見事。

 それにしても、この期に及んでまだ「赤い実(=乃絵のメタファー)」と「白い雪(=比呂美のメタファー)」を対立項として設定し、最終回までどちらを選ぶか分からせないのはニクい演出ですよ……。
 今のところ、「状況」的には比呂美さんが有利、「飛ぶ・決める」などの作品のテーマ的には乃絵さん有利という所で、勢いとしては全体的に乃絵さん有利という所です。

「気が付くと雷轟丸は赤い実に誘われて、あの丘の上に立っていました。
飛びたい。あの赤い実を食べたせいでしょうか、それともこの白い雪のせいでしょうか?
でも、雷轟丸は心の底からそう思ったのです。」
 
「そうだ、俺が絵本を書こうと思ったのは―――
あの目が、『俺が、飛べる』って信じてくれていたから。

 君が

空を飛びたい。
誰の為でなく、栄光や記録の為でなく、雷轟丸は、飛び立ちました。」(仲上眞一郎)

「地べた」と「眞一郎」の乖離

「あいつは何を言ってたんだ。
地べたと自分を重ねてたのは俺だ。
地べたのすごさに気付かなかったのは……、俺だ。
全ての事に向き合うのを、避けてきたのは……、俺だ。」(仲上眞一郎)

「地べた」に追いつこうとする「眞一郎(雷轟丸)」

「地べたは、飛ばない事を選択した。
俺は何一つ自分で選んじゃいない。
踊りだって。
絵本だって。
乃絵だって。
比呂美だって…。」(仲上眞一郎)

「弱い自分」を告白するのは、「現実」と向き合う事

「踊りたくなかったのは上手く踊れなかったからじゃありません。
 父親と比べられたくなかったからです。
絵本が書けないのは気分が乗らないからじゃありません。
 自分の限界を知るのが怖かったからです。」(仲上眞一郎)

「乃絵の場所」を比呂美に取って欲しくなかったのは優しい「拒絶」の象徴

「すごいごったがえしてるし、無理して見る事ないよ。」(仲上眞一郎)

三代吉君の言葉で自分が「決めなくてはいけない」事の実態を知る

「それよりお前何やってるんだよ。」(野伏三代吉)
 
「何って?」(仲上眞一郎)


「ホントだ、俺何やってんだろ?」(仲上眞一郎)
 
「は?」(野伏三代吉)

「踊り」とは「飛ぶ」事。だから、「決める(=飛ぶ)事」をした眞一郎の踊りは輝き出す

「今年の花形、急に良くなったな。」
 
「あれ、確か仲上の…」
 
「跡取り息子さ。」
 
「でも、なんで急に。」

石動乃絵

 乃絵さんは「決断」を迫られている事は知っているが「逃避」している人物。
 真剣に「現実」と向き合わないと涙を流せないのに、「気付かなかった事」から、「現実」を見ていなかったと勘違いしています。
 ですが人は他者を完全に理解する事なんて出来ません。第10話までのあの熾烈な「分からない事」から展開されるパワーバランスの破壊劇はそれを如実に物語っています。
 でも、今はまだ「分からない」事の恐怖、不安の所為で、「眞一郎の気持ち」から「逃避」し、「石動純の就職と告白」から「逃避」し、そしてラストの世界からさえも「逃避」しようとした事に繋がって行くワケです。

「決断」を迫られている事自体は知っている

「やっぱり、やっぱり、だめなの。
自分で決めなきゃ、
悲しくないの。
嬉しくないの。
笑えないのね。」(石動乃絵)
 
「やっぱり自分で決めなきゃ、泣けないのね。
飛べないあなたを軽蔑してたのは、飛べない私と同じだと思ったから。
 
でも違った。
 
あなたは飛ばない事を選んでたの。
胸を張って、まっすぐ前を向いて…、
 
それは飛ぶ事と同じ。」(石動乃絵)

「分からない」=「恐怖」

お兄ちゃんの気持ちにも気付かない。
湯浅比呂美の気持ちにも気付かない。
眞一郎の、本当の気持ちにも気付かない。
 
何も見てない私の瞳から、本当に、涙なんて流れるのかしら。」(石動乃絵)

湯浅比呂美

 比呂美さんはっと掴んだ「幸せ」を逃すまいと焦り、眞一郎君との「過去の絆」に縋って、今目の前で起こっている「現実」に向き合う事が出来ず「逃避」している人物。

「分かり合った」という発言は「焦燥」の裏返し(だって「分かる」のはとてもとても難しいから)

「やっと私達『分かり合えた』の。
やっと私達素直になれたの。
もう―――ごめんなさい、そっとしておいて。
私達……」(湯浅比呂美)

雪下駄を脱いだのは「夏祭りの思い出(二人で草履を片方脱いで歩いた思い出)」に縋っている

「おいてかないで…、おいてかないで。」(湯浅比呂美)

石動純

 石動純君は余りの辛さに乃絵さん、そして「自分の気持ち」というあらゆる「現実」から(距離的に)「逃避」しようとしている人物。

「自分が分からない&乃絵さんが辛い」は「現実」からの逃避

「俺、お前のこと守ってやらなきゃって思った。ずっと。
でも、よく分からなくなってきて…。
俺は、お前を守りたいだけなんだって思いたくて。
ワケの分かんない事まで。」(石動純)
 
「俺のしたいキスは多分こういうキスだったんだ。
色んな事、勝手に決めたけど、お前の傍にいる事が、もう辛いんだ。」(石動純)

 しかし、兄弟とはいえ、乃絵さんへの「逃避」で始めて「告白」を口に出来たというのは悲しすぎます。

あいちゃん

 あいちゃんは争奪レースから一足早く抜けて「現実」と折り合いを付けて、「現実逃避」を克服した人物です。

同じ「知らない」でも、あいちゃんのは「現実」をあるがままに受け入れる姿勢

「もう、私には知らない事ばっかりだ。」(あいちゃん)

 何故こんなに出番が少ない…。いや、分かってます。分かってますとも…。

true tears vol.3 [DVD]

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次回予告

 true tears 第13話「君の涙を」

 先回の感想でも書きましたが「涙を拭う」為には、「お互いが大切に思っている事」が必須条件です。
 泣いても笑っても最終回。「眞一郎君の決断」を見せてもらおうじゃありませんか。

おまけ

 第9話のあたりからtrue tearsの感想を書く時に「a song of storm and fire」を聞いているんですが、これを聞くとやる気が出てくるのは、私が「決める事」と「true tears」という物語が「決めるベクトル」を向いていた事を自然に理解していたからか、それとも単なる偶然なのか…なんて事を考えていました。

 そういえば確かに、「ツバサ」も「決断」や「覚悟」が中核ですしね・・・何だか似ているような気もしないではないです。

 ところで、「印刷会社」と「眞一郎君の絵本」が結びつきそうな所で、「眞一郎×石動純」を連想してしまった私、ちょっと疲れてますね…。