第5話「箱舟は湖水に揺蕩う…」は興奮しないでしっかり見よう!ちゃんと見よう!大事な話なので二回言いました。

 「取り戻したい『過去』」と「守りたい『今』」の鬩ぎ合いと、「方舟」という選民思想の匂いがする何となく不穏なキーワードの提示。恐らく今シーズンの方向性はこれで見えてきた感じです。

「方舟ってさぁ、えらい不公平だと思わない?
全ての動物、男と女、ペアで乗せてってさ。
拷問よ、拷問。
男でも女でもないアタシらはどうしろっていうのよね。
はい。
あんた、方舟に乗る資格が出来たのよ…。」
「立体、横漏れガード、ウィング付き…」

 方舟っていうのは、何かそういうのを企んでるヤツがいるって事の暗示なんだろうね。世界の崩壊に抗おうともせず、大勢の人を見捨てて自分達だけ何食わぬ顔で生き残ろうという卑怯な人々がいるって事ですね。
 そして、「方舟」に契約者の乗る場所はきっと無い。
 或いは逆に、紫苑をイザナギ、蘇芳をイザナミにしたて上げて、日本神話の「天地の初発」を行って世界をやりなおそうとする連中がいるのかもしれませんが、さてさて…

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写真=「取り戻したい『過去』」

「写真、撮ってみようかなって思ったけど、やめた。どうしてそんな事考えたんだろ。撮らなきゃいけない理由なんて、どこにも無いのに。」(蘇芳・)

 蘇芳の撮る写真は基本的には「友達」です。第1話で最初に撮ろうとした写真こそ野鳥でしたが、それは撮るのに失敗してますし、実際に撮った写真といえば、「ターニャから告白にOKを貰ってはしゃぐニカ」、「教室の掃除をするクラスメイト」、「食事する親しい友達」と、平和な時期の蘇芳・パヴリチェンコにとって「撮影」とは「友達」に限定されており、また母親の写真集を見ることは、その先にいる「母親」の心を覗こうとしたものであり、弟である紫苑・パヴリチェンコの部屋に飾ってあった「幸せだった頃の家族四人が揃って写した写真」が蘇芳・パヴリチェンコが「夢」に見た「取り戻したい『過去』」でした。
 もう少し突っ込んだ話をすると、蘇芳が写真を撮ろうとするのは、外に出られない弟の紫苑に外の世界を見せてあげ、昔の紫苑に戻って欲しいという「願い」が原動力の一つになっています。

 だから、冒頭で蘇芳・パヴリチェンコが大きな鯨を目にしても、昔のように写真を撮ろうとしなかったのは、そこに「友達」がいないから、そして見せてあげる紫苑がいないから当然の事なのです。

 ここで第1シーズン「黒の契約者」で黒さんが望遠鏡を覗く理由は、黒さんの「取り戻したい『過去』」、つまり「白と見た満天の星空」を取り戻そうとしたからでした。
 そして、第2シーズン「流星の双子」で蘇芳がカメラを覗く理由もやはり、それと相似形を成していて、蘇芳・パヴリチェンコにとって「取り戻したい『過去』」である「家族」と「友達」を取り戻そうという心の働きだろうということは、推して量れ、という事ですね。

 ただ、第1シーズン開始時点では黒さんは白さんが自分の中に消失した事に気付いておらず、まだ「取り戻せる」と思えていたんですが、蘇芳にとっての「取り戻したい『過去』」である「家族」と「友達」は、もう紫苑しか残っていない。だから全ては取り戻せない。

 「黒の契約者」も「劉生の双子」も、大枠は「取り戻したい『過去』」を取り戻そうとする人々の物語ですが、実は「守りたい『今』」を守ろうとする人々の話でもあったりするんですね。(というか、それが「答え」)
 勿論、過去を捨てて今に生きるという意味ではありません。第1シーズン第23話「神は天にいまし…」で「昔の星空」の思い出を懐かしそうに話ながら、「守りたい『今』」を守る為に今を生きている人達を思い出してください。

「やっぱり懐かしいのはジャコビニ流星群を見に行った夜かな。」(大山敏郎)

「…母さんもまだ、元気な頃だよ。」(ホウムラン軒の店長)

 彼らは、過去があるからこそ、今がある。
 黒さんも同じで、白さんを取り戻す為だけに生きてきた筈の黒さんの周りには、いつの間にか銀、黄、猫といった仲間や、未咲さんや久良沢さんといった友人も出来た。第1シーズンのラストは、半年間の物語を通して「守りたい『今』」の重みを知った黒さんが、「守りたい『今』」の為に「取り戻したい『過去』」に別れを告げる、というものでした。

「この街はどうなる?
俺が力を解放したら、白に会う事を望んだら。
契約者も、人間も、この街に暮らすヤツらは消えるのか?南米の時のように!……俺には出来ない。」(黒)
 
「じゃあ、契約者は消える。銀も私も、この星に暮らす全ての契約者が。全ての契約者が。
黒、あなたを除いて。」(アンバー)

 だから、蘇芳・パヴリチェンコもまた、「守りたい『今』」の為にもう一度カメラを撮りたいと思える時がきっと来ます。

 そういう意味で、ノリオの言う「生きてる実感」というのは、正に蘇芳に必要なモノ、作中善。

「もっと見つけていこうぜ、こう、キラキラ輝く、生きてる実感ってやつをよ!」

 ただ、「生きている実感」というと、どうしても第1シーズン黒の契約者第1,2話「契約の星は流れた…前編/後編」の篠田千晶、正確には記憶を移植されたドールですが、黒さんを庇って死ぬ少し前の彼女が口にした「生きてるって実感」という言葉を思い出さずにはいられず、とても不安です。

「変なの、見慣れた間取りの筈なのに、左右反転してるだけで何か変。偽物みたい。ここに越してきて二週間、本当に生きてるって実感があったんだ。初めてだったよ、こんな感じ。」(篠田千晶)

 偽物の生活、偽物の名前、そして今それを語っているのすら本物の千晶さんではなく、偽物のドールという存在なのにも拘わらず、「生きてるって実感」だけは偽物じゃなかったんです。

 しかし、同じく偽物の生活、偽物の名前、そして感情が希薄になった契約者と、極めて近い存在の筈なのに、「生きてるって実感」を感じられないのであろう黒さんが対照的に描かれます。

http://d.hatena.ne.jp/AlfLaylawaLayla/20070414/1176507180

 それにしても、DTBに出て来るのは、ほんとに自分の気持ちに正直な人ばかりで、とてもとても辛い道を選んだ筈の彼らの姿は、本当に清々しくてキラキラ輝いています。

「大人になる事」

「嫌だ、なにこの感じ…」(蘇芳・パヴリチェンコ)
 
「変なんだ、急がなきゃ…」(蘇芳・パヴリチェンコ)

 否応なく変化していく「精神」、自らの意志とは無関係に変わる「肉体」、そして容赦無く変容していく「周囲の人々」と「環境」。
 第1話の感想で書いた「契約者への変容」、「大人への変容」という、「幼年期の終わり」を蘇芳が歩んでいるというので間違いなさそう。

 「夢を見ること」と「夢から醒める」事、これが一つには「大人になること」を意味している事は間違い無い。そしてもう一つが「」「契約者になること」、これも多分間違っていない筈。でも、残酷にそれらを要求してくる「突然壊れる現実」に対して頭を垂れるのが正解か……というと、恐らくそれは必ずしも正しくはない。

 「流星の欠片」がニックさんやアンバーさんの願い・夢を叶えてくれたように、願望機としての「流星核(?)」とやらが、存在する以上は何らかの形で「夢」は叶う。それは間違いない。同時に、願った全ての「夢」は叶わない、これも間違い無い。何しろ現実は厳しいから。

 だって、「契約者になって変わってしまったターニャや紫苑」、「死んでしまった父親」、それらが全て丸く収まるワケ、ないじゃないですか。

http://d.hatena.ne.jp/AlfLaylawaLayla/20091009/1255025298

黒=「守りたい『今』」?

「契約者になったら感情が無くなるんだよね?
僕は、あなたが嫌いだ。」(蘇芳・パヴリチェンコ)
 
「そうか。」(黒)
 
「嫌いな男と一緒にいても、それでも僕は…、紫苑に会わなきゃいけないんだ。」(蘇芳・パヴリチェンコ)

 いつの間にか黒さんの呼び方が「あんた」と「お前」から「あなた」にランクアップしている辺り、黒さんは罪作りだなぁと痛感します。

次回予告

 やはりノリオは生き残れないか…

おまけ

 蘇芳がオカマのホストの人に比較的心を許しているのは、蘇芳・パヴリチェンコの「取り戻したい『過去』」の一つが「母親」だから、それを投影してしまっているからなんだろうけど、恐らく日本にいるであろう本当の母親は、どうなんだろうなぁ…。

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微妙に役に立つSunithaの第1期「DARKER THAN BLACK 黒の契約者」の感想はこちらで読めます。