僕らのワンダフルデイズ〜一生忘れられない音の記憶、貴方にはありますか?〜

 一生忘れられない「思い出」。青春の思い出、そして今の思い出。一生懸命走れば、きっとそれを見つけられる。そんなメッセージが込められた映画だったと思います。

「人間は、意識を失っても、聴力だけは絶対残ってるんだって。
それと、家族に、今の俺達の歌を残したい…」(藤岡徹)

 ずっと響き続ける音。それには二つ意味が有って、一つは勿論、「逝く人」の耳に、ずっと響き続ける音(=思い出)という意味で、もう一つが、「送る人」の耳に、ずっと響き続ける音(=思い出)という意味。

以下ネタバレ

 もう、僕らのワンダフルデイズは脚本がね、ホンットによく出来てるんですよ。
 序盤、主人公・てっちゃんが「末期癌」という主治医の会話を立ち聞きしてしまって、そこから一念発起、学生時代のバンドを再結成。でも、竹中直人さんの怪演と、「主人公は勘違いが多い」というフラグが上手く働いて、悲壮感は少なめに抑えられています。その中でも、何処となくよく分からない雰囲気を出している新規メンバーとして加入したドラムの日暮さん(ホントに日暮らししてるんだけどね)が、何となくみんなと打ち解けて無くて、「音楽性云々で辞めたりしないよね?」という不安を掻き立てたり、キーボードのナベさんの会社大丈夫か?とか不安を残しながらも、主人公てっちゃんや、もう一人の主人公である山本さんは、家庭に仕事に、少しずつ良い影響を与えていくんですね。
 しかし中盤で、「持つ者」である日暮さんが自前のスタジオを提供したりした事で、「持たざる者」であるナベさんの羨望混じりの鬱憤が爆発、それに伴いナベさんが栗田さんを「偽善者」と言った事で、暗転入滅、バンドは空中解散の危機に陥る。そして、それを漸く克服した所で、今度はもう一人の主人公、山本さんが倒れた事で、主人公・てっちゃんの立ち聞いた「末期癌」が、実は山本さんの事だったと分かってしまいます。
 勘違いで山本さんを引っ張り回して、挙げ句に無理を強いたのではと、山本さんに謝りたいてっちゃんだけれど、てっちゃんには、学生時代に山本さんを、これまた勘違いで傷つけてしまった思い出があるから、もう会わせる顔が無い。バンド再結成してから、一度だけ謝る機会があったけど、てっちゃんは逃げてしまった。それでも妻と仲間に支えられて山本さんに謝ったてっちゃん。それに対して山本さんは笑って「俺、みんなとバンドやって、良かったと思ってる」と言うのです。

「てっちゃん、俺を誘ってくれた時の言葉、覚えてる?」(山本さん)
 
「音は、家族にも残って、その音の記憶は、死んでも残す事が出来るって。」(山本さん)

 学生時代の失敗から30年近く経って漸く言えた謝罪。学生時代の勘違いも、今回の勘違いも含めて、挑まないでいたよりも、挑む勇気をもらえたのだから。それで例え自分の思う通りにならなかったとしても、後悔はしてないと言うのです。これはヤバい。
 そして終盤。いよいよ目標だったバンド大会当日。日暮さんの遅刻、栗田さんのお母さんの失踪で、バンド大会への出場出来るか出来ないかの緊迫感、そして相変わらず予断を許さない山本さんの体調。見てる側も、「おっさん死ぬな!おっさん死ぬな!」と思わず力が入ってしまいます。そして最後まで演奏しきった5人。ラストは、てっちゃんの娘さんの結婚式のバンド演奏。でも、もう車椅子に座って、最早自分の力で立つことも出来なくなった山本さんはギターを持てず、山本さんの代わりにギターを買って出たのは、山本さんの部下で、ギターを弾く山本さんの一面を知った事で、疎遠だった関係が親密になった部下の湯川さん。
 歌うのは希望の光に満ちあふれた高校時代の青春の歌。山本さんはもうギターを弾くことは出来ないけど、山本さんの部下が山本さんの意志を受け継いでくれ、やはり疎遠だった息子とも和解出来、妻と息子に支えられて、一緒に「自分の思い出の曲」を聞く。でも、歌半ばにして遂に途切れた山本さんの意識。でも、山本さんの耳にはずっと「思い出」が響いている。だって、「人間は、
意識を失っても、聴力だけは絶対残ってる」のだから。もうシチュエーションが盤石過ぎて私の涙腺が決潰。
 多少技巧に懲りすぎた嫌いはあったけれど、やはり素晴らしい脚本だったと思います。

 オススメ。みんなも見といでよ!

僕らのワンダフルデイズ サウンドトラック(初回生産限定盤)(DVD付)

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