第7話「香りは甘く、心は苦く…」〜「大人は分かってくれない」とは言うけれど、「子供だって分かってくれない」よね!〜

 「蘇芳・パヴリチェンコという少女」は「契約者」になってすり減っても、「大人」になって傷付いても、それでも無邪気だった子供の頃の「願い」だけは無くさない。その在り方を黒さんも、そして私達もまた、尊いものだと感じているのにも関わらず、「周囲」はそれを赦さず、ただ「契約者」として、また「大人」として扱おうとする。
 そして蘇芳・パヴリチェンコに新たに芽生えた感情こそが、「蘇芳・パヴリチェンコという少女の幼年期」の終焉に、その意味を、その結末すら知らずに進んでしまう、その危うさ、その儚さが描かれていたと思います。

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幼年期の終わり」の二種類の迎え方

 流星の双子での「幼年期の終わり」は「大人になること」と同時に「契約者になること」を意味しているというのは、第1話感想で書きました。

 「夢を見ること」と「夢から醒める」事、これが一つには「大人になること」を意味している事は間違い無い。そしてもう一つが「」「契約者になること」、これも多分間違っていない筈。でも、残酷にそれらを要求してくる「突然壊れる現実」に対して頭を垂れるのが正解か…… というと、恐らくそれは必ずしも正しくはない。

http://d.hatena.ne.jp/AlfLaylawaLayla/20091009/1255025298

恐らく大人は二種類いて、契約者も同様に二種類いて、それらは「幼年期」の終わりの迎え方に起因すると思います。*1

大人 大人になる時に『子供だった頃の願い』を全て捨ててしまった人 大人になっても『子供だった頃の願い』を忘れない人
契約者 契約者になる時に『人間だった頃の願い』を全て捨ててしまった人 契約者になっても『人間だった頃の願い』を忘れない人

 この前提に立って、主要キャラクターである黒さん、蘇芳について以下で見てみましょう。

黒さんの場合

 黒さんはカテゴリーとしては「大人になっても「子供だった頃の願い」を忘れない人」に属します。

 黒さんは、契約者となった妹・白を「守る」為に、自ら大人の世界に飛び込む事を―――暗殺者となる事を選びましたが、その結果、黒さんは人を殺す度に傷付き、感情がすり減り、「白を殺してあげるのが白の為なのでは」という囁きを何度もはね除け、自分が傷付いても妹を、白を守り続けようとしました。
 つまり、黒さんは妹の変貌という「幼年期の終わり」に際して、安易に「妹を捨てる」事を選ばずに「妹を守る」という「願い」を持ち続けた人です。

 その黒さんの姿を第1シーズンの真ヒロイン・アンバーさんは尊いものとし、そんな黒さんを愛してしまった結果、黒さんを守る為に敢えて黒さんに恨まれる道を選び、自分の命をすり減らし続けて黒さんの為に消滅しました。
 妹である白さんもまた、自分の為に傷付き続ける兄の姿を見て、少しずつ、少しずつ傷付き、「大事な何か」を再獲得し、黒さんの為に消滅し、それがやがて全世界規模の「契約者の変化」の端緒となりました。
 そして恐らく、銀も同じで、黒さんを愛しているから、黒さんに恨まれる事、或いは殺される事を覚悟で「イザナミ」にならなくてはならなかったのでしょう。

蘇芳・パヴリチェンコの場合

 蘇芳は、カテゴリーとしては「大人になっても「子供だった頃の願い」を忘れない人」と「契約者になっても『人間だった頃の願い』を忘れない人」の両方に属します。((これが恐らく流星の双子の魅せ方の一つなのでしょう))

 蘇芳は、契約者となった弟・紫苑を「守る」為に、自ら大人の世界に飛び込む事を―――エージェントとなる事を選びます。
 つまり、蘇芳もまた、黒さんと同様に弟の変貌、周囲の激変という「幼年期の終わり」に際して、安易に「弟を捨てる」事を選ばずに「弟を守る」という「願い」を持ち続けた人です。

 しかし、その「願い」が、如何に自分を傷つけるかという「対価」を黒さんはあまりに知ってしまっているから、そしてその「願い」があまりに純粋だから、黒さんは蘇芳に必要以上に感情移入してしまう。

 その一方で現時点で蘇芳は「いつか逃げるよ」と自身が口にしているように、あくまで一時的なものだと捉えており、白を守る為に終わりの無い暗殺者の世界に飛び込んだ黒と違い、悪い意味で「現実を甘く見ている所」があります。実際は、自分の利益の為に他人を殺せば、もう後戻りなど出来ないのにも関わらずです。
 泣き叫ぶノリオを目の当たりにすれば、人を殺す事の罪深さは分かる筈。しかし、今回幸か不幸か、確かに蘇芳はライフルを撃ちましたが、実際に手を下したのは銀であり、蘇芳自身が手を下していない為、精神へのダメージは半分で済みました。しかし、人を撃ってしまったら、今度こそ手遅れになってしまいます。今はまだ蘇芳は「契約者だから」と自分に自己暗示を掛ける事で「痛み」から逃れられていますが、その状態で人を殺せば蘇芳は「契約者」であるという事実から逃げられなくなってしまいます。

「お前が…やったのか。
なんで、お前が、母ちゃんを…」(ノリオ)
 
「契約者、だからか。契約者は人を殺しても平気なのか!」(ノリオ)

 そして今まで暗示され続けてきた蘇芳の「恋」が芽生えてしまった事で、蘇芳自身は益々泥沼に嵌っていきます。「紫苑を守る為」が「旅費を稼ぐ為」に置き換わり、今度は「黒に必要された為」に置き換わってしまっています。恐らく、黒を守る為に、蘇芳はライフルで人を撃とうとするでしょう。そのあまりに幼い「恋」故の行動はただただ儚く、脆く見えてしまいます。

「撃たなきゃ。」(蘇芳・パヴリチェンコ)
 
「だって、あいつに撃てって言われた。」(蘇芳・パヴリチェンコ)

ノリオ

 ノリオは、カテゴリーとしては「大人になっても「子供だった頃の願い」を忘れない人に属します。
 但し、たった今「幼年期の終わり」を迎えたばかりですが。

 恐らく、ノリオの迎えた結末亜h、いずれ蘇芳が迎える結末と、「傷付く」―――その一点に於いて同じでしょう。

 今話でノリオと蘇芳は非常によく似た描写がありました。それは、「大人からの忠告・意図を理解していない」という事です。
 蘇芳は、黒さんが施した訓練を「任務達成の為」だったと理解していますが、黒さん自身が「身を守る術」と言ったように、寧ろ任務の失敗、或いは任務を達成した後で、人を殺さざるを得ない万が一に備えて、「蘇芳が自分の命を守る為」に教えていたんですね。

「あいつには、身を守る術を教え込んだ。」(黒)

 しかし、蘇芳は、黒さんの意図を理解せず、「黒に必要とされたからのだから」と、任務達成を優先して撃とうとします。

「撃たなきゃ。」(蘇芳・パヴリチェンコ)
 
「だって、あいつに撃てって言われた。」(蘇芳・パヴリチェンコ)

 そして極めつけが、「どこの昭和時代の妻だよ!」と思わずツッコミを入れてしまいそうになる蘇芳の尽くしっぷりです。黒さんは蘇芳を傷つけないから撃たせたくないのに、蘇芳は、先程書いたように、黒の為ならライフルを撃つことを躊躇わない。

「もう撃つな。」(黒)
 
「どうして?」(蘇芳・パヴリチェンコ)
 
「お前には向いてない。」(黒)
 
「お酒、なくなっちゃったね。」(蘇芳・パヴリチェンコ)
 
「そうだな。」(黒)
 
「買いに行くの?」(蘇芳・パヴリチェンコ)
 
「…」(黒)
 
「僕、撃たないよ。その代わり、もうお酒飲まないで!」(蘇芳・パヴリチェンコ)
 
「交換条件か?」(黒)
 
「あ…」(蘇芳・パヴリチェンコ)
 
「買いに行くのは野菜だ。」(黒)
 
「待って!」(蘇芳・パヴリチェンコ)

 一方、ミチルは息子が「傷付く」のが嫌で、自分が傷付く事を承知で家に帰ってきてまでして息子に忠告を残しますが、ノリオはそのことを全く理解していません。

「母親らしい事何もしてないから、一つだけ忠告。あの子には、深入りしない方が良いと思うわ。きっと傷つく。」(ミチル)

「あー、もう!母ちゃんにもうNG出されちゃったよ!」(ノリオ)
 
「そうだ、俺、あの子にアピール中だった!」(ノリオ)

 結果としてノリオはミチルの言った通り「恋」故に深く傷付きました。
 今は泣いておけ、ノリオ。

ミチル

 ミチルはカテゴリーとしては「契約者になっても『人間だった頃の願い』を忘れない人」です。

「ほんとは寄るつもり無かったけど、対価だから仕方なくね。」(ミチル)
 
「ふふ。」(レバノン

 ノリオのトコでも書きましたが、ミチルは、ノリオが失敗だったから組織内での自分の立場、任務上での危険の増加を承知で、そして、その結果ノリオを傷つけてしまうことになるとしても、それでも契約者らしく合理的には考えずに忠告に来ました。
 また、対価(≒「取り戻したい『過去』」)が「お菓子作り」だった事からも、ミチルにとっては家族は今でも大切なもので、家族を傷つける前にノリオが物心つく前に家を出た、というのが真相なのでしょう。

結論

 蘇芳・パヴリチェンコは傷付きます。
 今回、ノリオの願い、「母親」という「取り戻したい『過去』」と、「蘇芳」という「守りたい『今』」、その二つの「願い」が両立しないということを知るまで気付かずに両方失ってしまったように、「紫苑を守る」という「取り戻したい『過去』」と、「黒を守りたい」という「守りたい『今』」、その二つの「願い」が両立しないということを知るまで気付かずにいるであろう、余りに愚かな姿。
 しかし、罪深い事に、その姿こそ美しい。

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次回予告

 来週は函館か。
 いつになったら東京に着くのやら。
 ところで、事前情報では1クールだって聞いていたけど、DVDの枚数とかも考えると、どう考えても2クールのような気がするんですが。

黒の契約者外伝

 みんな!DVD買って銀ちゃんに萌えようぜ!(バカ)

 3分もある壮大なネタバレ配信

おまけ

「あん?誰の事言ってんの?二又は感心しないねー。」(鎮目弦馬)

 もし鎮目さんが第1シーズンを見たのなら、男として怒っていいと思う、だって鎮目さんモテなさそうだしね!(禁句)

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微妙に役に立つSunithaの第1期「DARKER THAN BLACK 黒の契約者」の感想はこちらで読めます。

*1:但し、DTBに「失ったものを取り戻す」という要素がある以上、捨ててしまったものが形を変えたとしても取り戻す事はできますが、あくまで現在進行形の大人と契約者の話