アニメ版のだめカンタービレ感想 Lesson11



 今回は千秋の演奏に音楽面で疎隔を感じたのだめと、人間関係面で疎隔を感じた多賀谷さんが対照的に描かれていました。

鳴り物入りで登場の千秋とシュトレーゼマン。
 マスコミのお兄さんは予想通り、演奏に感動して帰ってくれました。
 作中では、近頃「卒業」という言葉が頻繁に登場してますが、日本での音楽の勉強自体には良い描写がされていなかったですし、ヨーロッパにこそ音楽の神髄 があるという象徴がシュトレーゼマンだったので、千秋のこれからの進路は、ヨーロッパに渡って本格的な指揮の勉強をする事になるのだと思われますが、シュ トレーゼマンの弟子として、一流のピアノ奏者として、十分な箔が付くでしょう。
 シュトレーゼマンの策略通り、という事なのでしょう。

 さて、千秋とシュトレーゼマンの共演で千秋がヨーロッパに羽ばたく下地が整った事になります。

 一方で、この共演はのだめに激しく影響を与えます。




 
 今までを振り返ってみると、千秋が定期演奏会でSオケの指揮をしていた頃、のだめはマスコットという事で千秋の奥さんと言っておにぎり作ったりしていました。

 千秋がニナ・ルッツ音楽祭で一流の音楽家達に認められていた頃、のだめは音楽に対して真剣ではなく、前もって練習もせず、講師の先生に怒られるとそれから練習にも出ず、千秋に「じゃあ帰れよ」と言われて、半ば当てつけの様にピアノを練習しただけでした。

 千秋がラフマニノフの練習を真剣に続けていた頃、のだめは学祭の仮装のマングースを作って、ピアニカを吹いて音楽を楽しんでいました。

 と、いうように、のだめは型に嵌らない才能を持っているのにも拘わらず、今まで自分から真剣に音楽に向き合って懸命に練習を積まずに、ただ音楽で遊んでいただけだった「溜め」
 これが、千秋の今までの「努力」を象徴し、その結晶であるコンチェルトを聴いて、千秋とのレベルの差に愕然として、千秋が弾いたラフマニノフを自宅で弾くのです。
 しかし、

シュトレーゼマン
「でも、それではオーケストラとは合わせられません。」「今のままでは無理ですよ、のだめちゃん。もっと音楽に正面から向き合わないと。本当に心から音楽を楽しめませんよ。」

 今まで作中では、「協調」「調和」が音楽の神髄であり、最も重要なものだと描写されて来ました。
 そして、作中人物の中では千秋がその先頭に立って、のだめ達との出会いで「音楽の楽しさ」を思い出し、Sオケの指揮を通じて「演奏者全員との協調、調和」を悟り、先回「魅せ方」を学んできました。
 作中で千秋は、「我を通す演奏」から、「他を生かす演奏」へと成長して、それが今回のコンチェルトに結実したのです。

 一方で、のだめは、人が合わせる事を待っているだけで、自分から合わせようとしませんでしたから、「オーケストラとは合わせられ」ないし、作中の真実、「協調」「調和」の境地を経て「本当に心から音楽を楽しめ」ないのです。

 しかし、のだめの凄い所は、本能的に、自分に何かが足りない事を自覚している所ですね。

のだめ
「のだめ楽しんでますよ!!何でそんな事言うんですか!!」

本当は分かってるから、ここで、のだめの激昂が来るワケです。

 そして、千秋の演奏に影響を受けたのがもう一人、多賀谷さんです。
 のだめが「音楽」で千秋との疎隔を実感したのに対し、多賀谷さんは「人間関係」で疎隔を実感したと言えます。
 自分の声楽の行き詰まりも伴って、自分から離れて遠い世界の人間になりつつある千秋を繋ぎ止めて、彼に縋ろうとしています。

 今まで歯牙にも掛けなかった菅沼さんより格下に扱われる事にいたくプライドを傷つけられた多賀谷さんは、当てつけに菅沼さんが好きな山本君を食事に誘ったり、かと思えば千秋が風邪だと知るとこれが機会と言わんばかりに目を輝かせて千秋の家へ、色しか頭にありません。

 千秋に縋って、傷心の自分を肯定して貰って、癒して欲しい多賀谷さんですが、

千秋
「お前はさ、何を歌っても綺麗でつまんないんだよ。折角いい声してんのに。もっとその底意地の悪い性格を曝け出すようにしたら?」

 音楽に対して厳しい千秋は多賀谷さんを否定。

 どん底の多賀谷さんの口から、千秋と別れた経緯を通じて千秋の音楽と恋愛に対する立ち位置を、後半は多賀谷さんの悶々とした想いが語られます。

多賀谷さん
「こういうヤツだった―――いつも私より音楽!音楽!!音楽の前では私も他人もなく、平等に厳しくて、私達はいつも喧嘩ばかりしてた。でも、真一は誰よりも才能あるクセに、誰よりも自分に一番厳しくて、一緒にいて辛かった。だから私は―――(別れた)もうすぐ大学も卒業。私が音楽をやめれば、私達、もっとうまく付き合えるんじゃないかしら。私が歌をやめれば―――」

 先々回ののだめと同じで、「音楽<恋愛」な多賀谷さんは、「音楽」は千秋と一緒にいる為の方便であり、「音楽」よりも「自分」を押しつけようとし、軽い鬱状態もあって、「音楽」では千秋を引きつけられないと考えて「恋愛」に力を入れようとし、「歌」をやめようとします。

 しかし、Lesson8で、シュトレーゼマンが、「千秋ねえ、でものだめちゃん、今の儘では千秋とは一緒にいれないねえ。一緒にいれないよ。」と言ったように、その生き方では千秋とは一緒にいられないのです。

 シュトレーゼマンが言うように千秋とパートナーになれるのは、一緒に歩いていける女性、「音楽」「恋愛」を等価値に出来る女性だけなのです。

 「人間関係」に疎隔を感じた多賀谷さんと対照的に、「音楽」に疎隔を感じたのだめは、「音楽」に没頭し、「音楽」「恋愛」が等価値な千秋の好感度を上げる事に成功です。

千秋
「あいつ、俺のコンチェルト聞いて、それからずっと練習してたのか。あんなになるまで。」

 来週はのだめの存在を知った多賀谷さんとの修羅場が見られそうです。
 というか、多賀谷さんが今までのだめの存在を知らなかったのが不自然すぎますが、女子高生の頃の多賀谷さんは可愛かったので許す事にします。