鼻濁音以前の議論です。

 今日のサンケイビジネスに、「最近は鼻濁音がなってない、美空ひばりを見習え」という趣旨のコラムが載っていました。

 正義の味方さん、それで満足ですか?

 元々、日本語の音韻体系に、鼻濁音ガ行一種類なのは非常に不安定な形なのです。室町末期頃には、ガ行以外の語中の濁音は鼻濁音から普通の濁音に変化していたので、鼻濁音のガ行の絶滅も時間の問題でした。それでも20世紀まで残っていたのは大したものですが、このコラムを書いた人は、日本語の歴史のいろは、そんな事全く知らないで書いている感じです。

 鼻濁音以前に、学校の国語の時間は発音にそもそも無頓着。五十音を並べて、読めるようになればいいとする。五十音が舌の位置で推移しているとか、悉曇学を導入して作られた歴史的経緯も、規範的と呼ばれる共通語の発音のいろはも教えていません。鼻濁音以外にも、発音が危ういところは山程あるのです。アクセントはその最たるもので、若年層で「ぞ」が高接し始めていたりもするし、どんどん簡略化の方向に向かっています。大体、日本語に対する知識だって一般的に普及していません。一般的にウ段の発音が、子音や、直前の母音で変化するなんて誰も教えてくれません。「ん」の音が直後の子音や母音で変わるなんて知りもしませんでした。多感な子供の頃に、先生が教えてくれないから大人になるまで意識しません。事によっては先生だって知らないかもしれません。私だって、音声学を学んで初めて知りました。

 この作家さんは、その辺の事情をどれだけ把握しているんでしょうか?この作家さんが日常的にどれだけ規範的という名のご立派な言葉を使っているのか聞きたいものです。

 「赤とんぼ」のアクセントは頭高型ですか?
 ら抜き言葉は使ってませんか?
 現代仮名遣いの「じ」、「ず」、「ぢ」、「づ」を正しく平仮名で書き分けられますか?
 漢字の書き順は間違ってないですか?
 あなたの名前は表外漢字だったりしませんか?

 「美空ひばり」を笠に着て、懐古趣味の同世代の共感を得ようなんて見え透いた文章で大言壮語する前に、まずは自分の言葉を振り返って下さい。作家だからって自分の言葉は完璧だなんて思っているなら、それは恐らく傲慢です。

 かなりむかついたので書いてみた。