Yes!プリキュア5第30話「ミルクの決意とみんなの力!」

 今回は「遅れてきた第23話・大ピンチ!悪夢の招待状 その2」とでも言うべき回。夢原さんの唯一の弱点、「将来の夢が無い」をミルクに言われた事に始まる騒動の中で、プリキュア側、ナイトメア側で、それぞれ神演出のオンパレード。恐ろしく完成度の高い回でした。そして何気にブラック。

DVDは10/17発売

Yes!プリキュア5 Vol.1 [DVD]

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 言われたくない言葉がある。

 思い出したくない過去がある。

 いつも元気な希望のプリキュア夢原のぞみさんが一番言われたくなかった言葉は、

「のぞみこそ、将来の夢も無いクセに偉そうに言って欲しくないミル!」(ミルクさん)
「夢ならあるもん!ココ達の国を蘇らせる―――」(夢原さん)
「それは王国みんなの願いミル!のぞみ個人の夢じゃないミル!」(ミルクさん)
「え・・・」(夢原さん)

 全くお世話されずに、寧ろお世話されてる「要らない子」筆頭のミルクさんが一番言われたくなかった言葉は、

「勝手に人のチョコを食べちゃうような人がお世話役見習いなんて、パルミエ王国も随分人手不足だったんだねー。」(夢原さん)
「なんて事言うミル!王国の悪口は許さないミル!」(ミルクさん)
「パルミエ王国の事じゃなくてミルクがお世話役に相応しいのかって話じゃない!」(夢原さん)
「ミルクは小さい頃からお世話役になる事を夢見てきたミル!」(ミルクさん)

 そして横で聞いていて胸がズキンズキンと痛んでいたのは、「初代プリキュア失格経験者」水無月かれん14歳です。

将来の夢も無いクセに偉そうに言って欲しくないミル!」

 ズキンッ!

「そんなんじゃプリキュアになる資格も無いミル!」

 ズキズキズキンッ!!

 み、水無月先輩だって好きで夢が無いんじゃない、好きでプリキュアの資格を無くしたんじゃない・・・・・・。ババアとか呼ばないであげて!

 さて、夢原さんとミルクさんの対立の一番の原因は、ミルクさんが自分の気持ちの伝え方を知らなかった事。なまじエリートとしてのプライドが、「将来の夢を持っている」という選民意識があるので、「勉強もできなくて」、「将来の夢も無い」、そんな夢原さんに対して有利な立場を示したい、自分の優位性を示したいという欲求が有ったから、夢原さんのチョコを取ったりして「庶民に許されない特権を持っている人間」であると、そして「早い者勝ち」と無茶な論理を主張して「競争に於ける勝者」であると、そして「夢を持っているから自分は崇高な存在」であると言っているワケです。ミルクの場合はまだ子供なので、その行動の発露が「人のチョコレートを奪う」というような幼稚なトコに留まってますが、このまま大人になったらミルクは大層危険な存在になりそうです。

 以上を纏めると、

発露 思想 痛い所
チョコを奪う 「庶民に許されない特権を持っている人間」 その特権の由来となっている「パルミエ王国」に対する侮辱が許せない。
チョコを奪った事を正当化 「競争に於ける勝者」 競争に勝利してきた証しである「お世話役見習い」という役職を否定されると激怒する
その他全ての傍若無人 「夢を持っているから自分は崇高な存在」 作中では語られてませんでしたけど、「夢」の持つマイナスの要因でもあります。「夢」もいい事ばかりじゃない。

 これだけでミルクが道を踏み外すブラックな小説が書けそうです。
 あまりに暗い闇を見過ぎると危ないです。「深淵を覗く者は、深淵に覗かれている」とも言います。観なかった事にして「コミュニケーションがうまくない」所為にしておきましょう。とまれ「でも、のぞみは夢を持っていないミル。ミルクのお世話役への思いは分からないミル。」というミルクさんに、「初代プリキュア失格者」である水無月先輩がアドバイス

「一生懸命な者同士、きっと心は通じる筈よ。」(水無月先輩)

 流石心の傷の経験者。上手い落としどころを持ってきてくれました。実際、ミルクさんも、のぞみさんの事が大好きだから、「のぞみこそ、将来の夢も無いクセに偉そうに言って欲しくないミル!」という言葉を発する前の僅かな沈黙があったのです。それは、半ば本心、半ば嘘だけど、子供であるが故に、自分を正当化する為に他人を相対的に貶める手段に走ってしまったから。でも、「夢を持つ人」も、「夢を探す人」も、「一生懸命さ」は変わらないのです。

 けれど、その論理から仲間外れにされた人達もいます。そう、「夢」を見失って、「夢を叶える手段」が「目的」にすり替えられたナイトメアの皆さんです。

「これを使えば強大な力と引き替えに自らの意思を失ってしまう。それでも構わないというのですね?」(カワリーノさん)
「ナイトメアの為に、そして、私のプライドに賭けて・・・、さ、最後の手段・・・。」(アラクネアさん)

 最初は組織内での栄達を目指していたのに、それを阻止したプリキュアに対する憎悪によって「夢」すら忘れてしまったアラクネアさんを、ブンビーさんが止めに掛かります。

「アラクネア君、それを使うのだけはやめなさい。」(ブンビーさん)
「何をいきなり。ブンビーさんだってギリンマに渡していたじゃありませんか。」(アラクネアさん)
「それは危険すぎる。君はカワリーノさんにいいように使われているだけなんだ!」(ブンビーさん)
「はっ!どうせ自分の部署が危うくなるから止めに来たんでしょ?」(アラクネアさん)
「それもあるんだが、いや、そんな事はもうどうでもいい!私は君の事が心配なんだ!」(ブンビーさん)
「私の力でこの仕事を成功させてみせます!」(アラクネアさん)
「ア、アラクネア君!待つんだー!」(ブンビーさん)

 この夕日を背にするブンビーさんとアラクネアさんの対比が切ない。ブンビーさんは「ナイトメア内での出世」という目的を見失う前のアラクネアさんを知っているから、今のアラクネアさんが本来のアラクネアさんが臨んでいた道から大きく外れている事が客観的に分かるのに、アラクネアさんは、「絶望の力」の所為か、主観的に自分の同一性に揺らぎは無い、「ナイトメアの為に仕事を成功させる事」が自分の最初からの目的だったと半ば錯覚しています。夕日を前にしているから、アラクネアさんには「夕日が当たっているアラクネアさん自身(=本心)」は見えないけど、ブンビーさんにはそれが見える。逆にアラクネアさんには、「夕日が当たらないブンビーさん(=いつもの冷徹な上司としての面)」しか見えないから、ブンビーさんの「心配」をブンビーさんが「損得勘定」で動いているようにしか見えない。

 もの凄い神演出です。

 そして始まるアラクネアさんの最後の戦闘。コワイナー抜きで圧倒するアラクネアさん。アラクネアさん一人で戦った方が強かったのか、夢原さん抜きのプリキュアさんが弱いのか。その理由は、夢原さんには「みんなを輝かせる力があるから」。その夢原さんがいないと、他のプリキュアさんも実力を十分発揮出来ないのです。そして残り一撃でプリキュアさんあわや全滅という所で夢原さん登場。

「私、プリキュア失格かも知れない。でも、私はみんなと一緒にパルミエ王国を復活させたい。だから、プリキュアでいたいの!」(夢原さん)

 流石はプリキュアさんのリーダー。仲間の為に自力で復活した夢原さんが、「プリキュアの資格」の象徴である「ピンキーキャッチュ」を一度蝶に戻し、再び自分に「プリキュアの資格」があるかを試すという、神演出付きで変身です。ああああ、夢原さん恰好良い!!恰好良すぎです!

 そして、その夢原さんの決意に応えてミルクも「本当の気持ち」を伝えます。

「ミルクは、ドリームが、のぞみが大好きミル!
ドリームはミルクの大切なプリキュアミル!
絶対辞めちゃダメミル!パルミエ王国を復活させて欲しいミル!
ミルクは、ドリームと、プリキュアと輝きたいミル!」(ミルクさん)

 そして再び登場した巨大破壊兵器ドリームトーチによる「プリキュアファイブエクスプロージョン」で、アラクネアさんを撃滅破砕。アラクネアさん、お疲れ様でした。

後日談

「半分ちょうだい。いいでしょ?昨日ミルクが食べちゃった分。」(夢原さん)

 半分だけ。そう、半分でいいのです。取る、取られるじゃなくて、分け合う気持ち。その気持ちが欲しかったのです。

 ・・・いや、正直それよりもミルクさん。早く変身して下さい。

次回予告

「のぞみとココのラブレター事件!」

 どこまで行くんだ、この二人。(注:生徒と教師です。でも、美少女とケダモノです。危なすぎます。)