スケッチブック 〜full color's〜第12話感想&備忘録「スケッチブックの日」
今回のスケッチブックは「兄弟姉妹の関係」を通して「変わる」を描いたお話。
過去、季節は秋、コスモスの咲く夕方の川辺。
「おえかきちょう」を抱えて歩く空さん。飛行機雲を見上げて仰向けに倒れそうになり、道端のコスモスを見付けます。
現在、季節は冬、烏の声が遠くに聞こえる夕方の川辺。
「スケッチブック」を抱えて歩く空さん。飛行機雲が流れていきますが見上げたりはしません。
全く同じ場所、全く同じ構図なのに、季節が変わったからコスモスの花も無いし、木の葉はすっかり落ちてしまっているし、幾星霜経たから、木も増えていて、対岸には昔は無かった大きな建物が林立しています。
それと同じようにそこを歩く空さんも変わっていきます。
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漫画版は「いつまでも終わらない日常」の楽しさ、アニメ版は「いつか終わる日常」の尊さ
「私と一緒にいない青は、いつもとはちょっと違う弟さんだ。」
街で友達といる時の青君。これは第3話「青の心配」と逆の構図。
と言うわけで、何となく花火が描き易くなった空さん。マイペースな空さんの周りには、やっぱりマイペースな人たちが沢山いて、みんなで楽しくやっている「輪の中にいる空さんの姿」を目にして思うのです。
「どこにいてもあんま変んないんだな、姉ちゃんは。」
空さんは、どこにいても空さんなのでした。
http://d.hatena.ne.jp/AlfLaylawaLayla/20071018/1191496128
第3話「青の心配」では、青君は「あんま変んないんだな」と感じていましたが、今話では空さんは「いつもとはちょっと違う」と感じるワケで。この「姉と一緒の時の青君と友達と一緒の時の青君」が「昔の青君と今の青君」を導くきっかけにとして働いています。
昔の青君:空さんのおえかきちょうの怪獣を取って破ってしまう
「青も、あの頃は相当バイオレンスな弟さんだった。」
↓
今の青君:空さんを気遣って緑の食事を用意
「いつもの青。でもバイオレンスではない。」
この時空さんが言った「いつもの青」という言葉は、「自分と一緒の時の青君」、「今の青君」のダブルミーニングになっていて、「変わらないようでいて、気が付けば変わっていくモノ」という意味が込められています。
「変わらないようでいて、気が付けば変わっていくモノ」、それは例えば第10話「出会いの先」でも「秋の訪れ」という形で描かれていました。
「秋の裏山はいつのまにかいつもの裏山とちょっとちがってた。
毎日ちょっとずつ、気付かないうちに変化していたのだろう。」「変わらない日常」の連続のようでも、実は常に移り変わって行っていて、その瞬間その瞬間毎に、代え難い「一期一会」がある。
それは例えば「景色」であったり、はたまた「人」であったり、もしかしたら「今のこの生活」さえ、「掛け替えのないモノ」。
でも、そういった切なさは、「この一瞬」を楽しんでいる空さんからは由来しないで、空さんが何気なく言った台詞、「いつものように、いつものみんなと、いつの間にか訪れた秋を感じている。みんな楽しそう。」
から、それを観ている視聴者の胸から感じられるようになっています。
私は、この作品のこういう手法が好きなんだよねぇ。
ところで、私は原作とアニメのスケッチブックで根本的に違うのは、最初のパラメーターの入れ方の違いだと思っています。
原作は、連載開始からずっと「終わらない日常」が続くのに対して、アニメ版は、「時間の流れ」を第2話「いつもの風景」の段階で、「いつか終わる日常」というスタンスを既に提示していました。
「いつもと違う」は、ちょっとした異世界への日帰り一人旅。「日常」からちょっと途中下車、ときどき遡行。所により猫。
本当は、「日常」は変わらないなんて事はなくて、「いつもの日常」の間にも時計は律儀にコチコチと時間を記録していくし、緩やかな「いつも」にも、事件が起こって、事件が重なって別の「いつも」になっていく。「いつも」はいつも変わっていて、「いつも」はいつも「いつも」じゃないし、いつまでも「いつも」でもない。でも、振り返ればいつか歩いていた筈の夕焼け空。
あの頃過ごした時間は、まるで毎日がループのように同じ事の繰り返しで、その時は退屈だと思ってたけど、それ以外の選択肢は考えられなくて、やっぱりすごく楽しくて。主人公の梶原空さんの「いつもと違う」の旅は、そういった「いつもの日常」を自分からちょっとだけ変えてみる事の試み。「いつもと違う」は新鮮な驚きと発見、そしてワクワクとした興奮があるけれど、反面で、違和感と喪失感、そして不安感が裏側にあります。
空さんは「非日常への離脱」を象徴する「現実の座標からの離脱=家から出る」という行為に始まる「いつもと違う」を通して「驚き」、「発見」、「興奮」を経験して、そして「家に帰る」という「日常への回帰」を象徴する「現実の座標への回帰=家に戻る」で旅を終えます。「『いつもと違う』を楽しめるのは、それはすぐそこに「いつも」が待っていてくれるからで。」
「私もそろそろ、戻ろうかな。」でも、空さんも知っている。行きすぎれば「違和感」、「喪失感」、「不安感」が待っている事を。
だから、空さんは「家に帰る」事を通して「いつもと違う」をやめます。そして、「違和感」、「喪失感」、「不安感」は一度も描写される事もなく、ただ視聴者の心のなかで補完されるのです。こうして空さんは、作品世界という「擬似的な日常のループ」に戻るんですが、それを観ている現実世界の私達は「いつもの日常のループ」を経験した事があり、そしてそれが永遠ではない、ループじゃない事を知っているからこそ、作品世界で流れていく空さんの日常がいとおしいし、そして切ないんです。
物語の終わりで作品世界と現実世界の遮断を視聴者に意識させる事で、心地良くも切ない余韻を漂わせる演出は地味だけどすごく上手い。ただただ上手いです。
「あの時」はもう届かないからこそ尊いのだ。
http://d.hatena.ne.jp/AlfLaylawaLayla/20071004/1191496128
だから、「季節」も「時間」も「景色」も「日常」も、全部変わっていく。だからアニメでは青君が成長し変わっていく事を描く事が出来た。これは原作には出来ないアニメならではのアプローチだと思っています。
だから、同じように空さんも変わっていきます。
昔の空さん:怪獣役はやりたくない
「姉ちゃん、怪獣やってよ、怪獣ー。」
↓
今の空さん:怪獣役だってやれる
「がおー。」
妹の誕生日の為にプレゼントを慣れない画材屋さんで真剣に選んでいた雷火お兄さんや、妹の頼みだからホントは苦手な犬とだって頬摺りだってやってのける根岸君と同じように、空さんが「あの時」に空君にせがまれたのにやってあげられなかった「怪獣役」に「今」扮したりした事で表されていましたように感じました。
「あのお兄さん、何だか幸せそうで。」
「なんだろう、いつもの根岸先輩がみなもちゃんといると
いつもと違う、お兄さんになる。
ここにも、お兄さんと妹さん。」
次回予告
スケッチブック 〜full color's〜第13話「ひとりぼっちの美術部」
「みんなといると楽しい。でも、いつかお別れの時が来るのかな?」
そんなワケでいよいよ最終回。「変化」を描き続けた作品だったし、さよならが来るのだって分かってた。それでも、寂しいモノは寂しいんだからしょうがない。
原作に流れている空気を壊さず、寓話的に「郷愁」とか「哀愁」といったものを視聴者が感じ取れるように出来ていたこの作品が私は好きでした。って、まだ終わってないですか。それではまた来週。
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おまけ:今回の涼風コンビ
「なんか私達変わり映えしませんね。」
「うん。」
「じゃあちょっと」
「変えてみましょかー。」
涼風コンビの私服は可愛いなー、と思っている場合じゃない、「変わり映え」しないんじゃなくて、二人は人間的に「変わっている」というオチ…と、ハイブローなギャグなのでした。