機動戦士ガンダムOO第18話感想&備忘録「悪意の矛先」

 今話は、トリニティへの怒りを視聴者に起こさせ、それによって刹那・F・セイエイの行動に対して共感させ、視聴者と刹那・F・セイエイの怒りのベクトルを一致させ、刹那・F・セイエイ達を作中善として描写する為のお話でした。

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お前達は天使じゃない。

 それは禁忌。
 前回の予告で或る程度は覚悟してたけど、精神的にはともかく、決して身体的に「癒えない傷」は付けてこないとタカを括っていたので、ルイスさんの病院に沙慈君が来た時点で、沙慈君とルイスさんが一緒に精神の傷を癒していくんだと思っていたのに、ルイスさんには既に精神的にも身体的にも「癒えない傷」を付けられていた。

 確かに手法は的確なんです。
 ルイスさんの両親を含めた親戚一同が集まったパーティーガンダムの攻撃の余波を受けて、ルイスさんのお母様は、「それがもたらす効果」を考慮すると死亡確実、悪くしたら新郎新婦も―――と思っていたのに、ネーナ・トリニティはただ「ムカツク」という理由で全員を虐殺しようと思いつく。

「何それ!?こっちは必死でお仕事やってんのに、脳天気に遊んじゃって!
世界は変わろうとしてるんだよ?」(ネーナ・トリニティ

 マサカ。ヨセ。ヤメロ。

 そんな事を画面の前で叫んでも、見ている事しか出来ないただの傍観者である我々にはそれを止める事も出来ずに、ネーナ・トリニティにとっては指一本の仕事でしかない軽い引き金は引かれた。

 パーティー会場の中心に一撃。建物に一撃。全員を殺すつもりで放たれた銃撃は、新郎新婦への祝福とは最もかけ離れた悪意。

「ごめーん、スイッチ間違えちゃって。」(ネーナ・トリニティ

「作戦行動続きで疲れてんだろ。」(ミハエル・トリニティ)

「勝手な行動は慎め。」(ヨハン・トリニティ)

 「スイッチ間違えて」、「疲れてんだろ」、「慎め」。

 人の命を、人の幸せは、トリニティにとってそのようなものでしか無かった。一般人を撃たないのは太陽炉が供給するエネルギーが有限だから。作戦行動の支障になるから、「無駄」だから撃たないだけ。嗚呼、こいつらはやっぱり「悪魔」なのだと認識。お前等は天使じゃない。

 でも、そこまでなら、何とかなりそうな気がしていた。

 少なくてもルイスさんは無事だろうし、沙慈君は指輪を用意している。何もかも失ったルイスさんにも、まだ沙慈君がいるから、きっと大丈夫、大丈夫…。

「前にルイスが欲しがってたやつ、試験休みの間にバイトしまくってさぁ、ようやく買ったんだ。
受け取って、ルイス。」(沙慈・クロスロード

 でも、沙慈君とルイスさんのそんなささやかな幸せすら許してはくれなかった。

「ごめんね、沙慈。
せっかく買ってもらったのに、すごく、綺麗なのに、もう、嵌められないの。
嵌められないよ……。
ごめんね、沙慈……。」(ルイス・ハレヴィ

 的確だ。確かに的確だ。
 ルイスさんは何もかも失った最悪の地獄を目の当たりにした。でも、「救い」は沙慈君によってもたらされると信じた矢先に、事態は遙かに最悪だったのだと、地獄はまだルイスさんを苛み続けている。生き続ける限り永遠に。

 「地獄」を目の当たりにして、「救済」がもたらされ、「地獄」はお仕舞いだという期待を持たせた所でさらに「地獄」を見せる、「地獄」、「救済」、「地獄」で繰り出される演出は、「救済」の段階で張りつめていた視聴者の緊張が解かれる為に、その次の「地獄」の衝撃が一層際だつ。

 私は「スタッフ」に怒ってるんじゃないんです。こんな事件が起こっているのに、淡々と分析している自分に怒っているんです。恐らく、今話に於ける製作側の狙いはこの一点にこそ存在するのでしょう。ルイスさんは、事件が起こるまで、ソレスタルビーイングの活動に全く興味を抱いていなかった。世界情勢にも殆ど無関心だった。それは私達の姿そのものだった。ただ、「幸せな時間」がずっと続けばいいと思っていた、普通の「何もしていない」一般市民だったんですよ。その彼女が思想も理念も無いネーナ・トリニティのほんの気まぐれの、ささいな「悪意」によって全てを、本当に全てを失ってしまったからこそ、それがより悲惨に映るし、より恐怖をもたらすし、トリニティに対する怒りも生まれるし、そして何より、「何もしていない」ルイスさんが全てを奪われる瞬間を、「何もしていない」私達視聴者はただ傍観していただけ。
 ここで決定的に、「作中世界」は視聴者の脳内で完全に「私達の現実」に投影され、「何もできなかった私達自身」に対して嫌悪感が芽生え、虚構の世界でしかなかった「作品世界」に対して、悲しみ、怒り、焦燥感が刻み込まれる。
 この効果は完璧でした。完璧過ぎて、こんなモノを作った製作側よりも、それに干渉できない無力な視聴者側としての自分に怒りが向いてくる。

「『それ』がもたらす効果」

「あれが、ガンダムのする事なのか…。」(刹那・F・セイエイ)

 言うまでもなく、今話は、「トリニティに対する怒り」を視聴者に抱かせる事を目的として構成された話です。「戦争」を憎む刹那・F・セイエイ、「テロ」を憎むロックオン・ストラトス。彼らの心情は今まで視聴者にはよく伝わらないように意図的に描かれていたんですが、今回、等身大の「私達」であるルイスさん、そして沙慈君が巻き込まれた事で、刹那・F・セイエイ、ロックオン・ストラトスの気持ちが分かってしまったでしょ?ガンダム・トリニティに向かっていく刹那・F・セイエイを応援したいと思ったでしょ?怒りと憎しみに駆られて応援したいと思ってしまったでしょ?

 こうして脚本は完璧に機能し、予想通りの効果を上げたのです。忌々しい事に。

 今回の脚本が凶悪なのはこれだけではない。例えば絹江さんが接触したAEUの軍人もまた、家族思いの父親で、沙慈君のように、ただ娘を喜ばせたかっただけだったのに、彼も殺され、彼の娘は、悲しみに沈んだ誕生パーティーを迎える事になる。最高に幸せな時間を打ち砕かれたルイスさんと同じように。

「ありがてぇ、これで娘の誕生パーティーも華やかになる。」(軍人)

「前にルイスが欲しがってたやつ、試験休みの間にバイトしまくってさぁ、ようやく買ったんだ。
受け取って、ルイス。」(沙慈・クロスロード

 そしてまた、なおも「真実」を追おうとする絹江さんもまた、エイフマン教授と同様に銃口を向けられている。

「父さん、私も、事実を求め、つなぎ合わせて、そして真実へ…。」(絹江・クロスロード

 さて、目下、全ての悪意の中心にいると目されるアレハンドロ・コーナーですが、

「私はヴェーダの設定したアクセスレベルにある情報しか知らんよ。」(アレハンドロ・コーナー

と、言っていますが、先回リボンズ・アルマークがもたらした「貴重な情報」って覚えていますか?
 今話でティエリア・アーデが「拒否された!?この僕が、アクセス出来ないなんて!」の直後に、リボンズ・アルマークのカットが入った事から、書き換えられた情報は、先回リボンズ・アルマークによりアレハンドロ・コーナーにもたらされた「貴重な情報」なのだと推測できます。
 以前の感想でも、アレハンドロ・コーナーとトリニティの思想は同一だという描写が既に二度ありましたから、第一期のラスボスは「人間が嫌いな神さま」のポジション(先回の感想参照)のアレハンドロ・コーナーで、「知らんよ」というのは嘘なのです。

「流石兄貴、やる事がえげつねぇぜ!」(ミハエル・トリニティ)

 そもそも、これだけミハエルさんに信頼されているという事は、ヨハンさんもミハエルさんの同類という事でしょう。ハロも、「ヤッチマエ!ヤッチマエ!」と連呼していた事からも、やはり先回予想した通りトリニティ組は一枚岩の集団という解釈で合ってそうです。ついでにその思想はアレハンドロさんと共通というおまけ付き。

 ヨハン、ミハエル、ネーナの3人は、急進的なミハエル、ネーナを、一番上の兄であるヨハンさんが押させている感じですが、3人の私服は聖職者っぽいユニフォームで統一され、兄弟の仲も良いところを見ると、私服も性格もバラバラで纏まりのないプトレマイオス組のマイスターズとは違って、「意見の統一」はされている一枚岩の集団と見るべきでしょう。

 その前提に立ってトリニティ組の意見を発言を振り返ります。
 まずは、地上に住む人々に極力被害を出さないようにしているプトレマイオス組とは違って、「地上の人間」なんてどうでもいいという感じで、情を挿まない神意の忠実な遂行者という感じ。ヨハンさんもミハエルさんを宥めてはいても、ミハエルさんの言い分もよく分かっていてもまとめ役として正論を言っているだけという印象を受けます。

「つまりは、ヤツらのやり方が甘ぇって事だ!
大体よぉ、緊急時以外は敵機のパイロットを殺さないってスタイルが気に入らねぇ!
熟練パイロットの数が減れば俄然こっちが有利になるってのに!だろ、兄貴?」(ミハエル)
「そう言うなミハエル。彼らは輿論の反応を気にしてるんだ。」(ヨハン)

 更に、15話でアレハンドロさんとリボンズさんが口にした「ガンダムは兵器」という言葉を共有する所から見ると、トリニティ全体の思想はアレハンドロさんと同じだという事だと思います。

「ありゃあれか?昔に流行った無抵抗主義ってやつか。何の為にガンダム乗ってんだよ。」(ミハエル)

「まるで殉教者気取りだ。このような行為で戦争根絶など。」(アレハンドロ・コーナー
ガンダムの性能を『神の力』だと勘違いしているのでしょう。」(リボンズ・アルマーク
「馬鹿馬鹿しい。ガンダムは兵器だよ。目的を遂行する為、人を殺める為に作られたものだ。」(アレハンドロ・コーナー

http://d.hatena.ne.jp/AlfLaylawaLayla/20080112/1200137033
http://d.hatena.ne.jp/AlfLaylawaLayla/20080126/1201348818
http://d.hatena.ne.jp/AlfLaylawaLayla/20080202/1201951781

 また、ヴェーダが事実上使い物にならなくなった事で、スメラギ・李・ノリエガ達は、以前から描写を重ねていたヴェーダからの自立を半ば強制的にしなくてはならない状況になり、ヴェーダに異常を見付けたティエリア・アーデヴェーダを元に戻すという理由で、プトレマイオス・クルーが纏まっていきます。恐らく、ティエリア・アーデは最初は「ヴェーダを元に戻す」というような目的で共闘していくウチに、より「人間」らしく変わっていて「ヴェーダ」から自立していく事になるのだと思います。

 また、プトレマイオスの大人組、スメラギさん、ストラトス兄貴、おやっさんの3人はヴェーダへの不信感を共有して大人の相談を開催しているのが恰好良い。やっぱり大人組の信頼や、刹那君&ティエリアさんの共闘とかがプトレマイオス組の結束に繋がっていくんだよねぇ。(しみじみ)

 先回アレハンドロさんが「ヴェーダの計画通りに」とヤケに含みのある台詞を口にしていた事や、今までコツコツと描写されてきたスメラギさんとヴェーダとの「意見が合わなくなる日の到来」が現実味を帯びてきた感じです。

 そして、ヴェーダと自分の予測が外れたことに安堵したスメラギさん。

 今まで「人類は未成熟な生命体」と不完全性を許容したり、ビリーさんとの友情に義理を立てて作戦に組み込まなかったりと、「不完全」な所があるスメラギさんだから「計画通り」でない事を肯定したのも納得出来るんですが、それはつまりヴェーダとの疎隔ではないの?と疑問符が浮かんできます。

「予想が外れて嬉しいこともあるのね。」(スメラギ・李・ノリエガ

http://d.hatena.ne.jp/AlfLaylawaLayla/20080126/1201348818

 友人を利用したくないから今回立てた戦術予測にはビリーさんのデータを敢えて使っていないようですが、これは目的の為に非情になれないスメラギさんの甘さであり、致命的な敗因になりそうです。

 恐らく、今回ヴェーダの限界についてのティエリアさんの台詞なども考慮すると、今はまだ一致しているスメラギさんとヴェーダの意見の不一致がソレスタルビーイング、そしてガンダムに暗い陰を落とすことになるのだと思います。

「こうも世界が早く動くとは。ヴェーダにも予測出来ない人のうねりというものがあるのか。」(ティエリア・アーデ

「私とヴェーダの意見が一致したわ。」(スメラギ・李・ノリエガ

http://d.hatena.ne.jp/AlfLaylawaLayla/20080112/1200137033
http://d.hatena.ne.jp/AlfLaylawaLayla/20080202/1201951781

次回予告

 機動戦士ガンダムOO第19話「絆」

 「復讐すべき相手は己のすぐ傍にいた。その事実を知ったロックオン・ストラトスは激情とともに銃を手にする。」