true tears 第11話感想&備忘録「あなたが好きなのは私じゃない」

 今回は乃絵さんが眞一郎君との「絆」が断ち切られてしまった事で追い込まれ、「本当の涙」と「飛べる」という二つのキーワードに対して「乃絵さんが誤解されていた事」が提示された話でした。

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 乃絵さんは、「本当の涙」と「飛べる」に拘るようになったのは、勿論乃絵さんのおばあさんの言葉がきっかけになっています。

「誰でもってわけじゃない。
とっても、とっても大切な人の涙だけ、もらってあげる事が出来るんだ。」(乃絵のおばあちゃん)
 
「いつしか、私も泣きたいって思えるようになったの。
その為には誰かから涙をもらわなくちゃ。
でも―――」(石動乃絵)
 
「誰でもってわけじゃない。」(仲上眞一郎)
 
「そう。
私が大切だと思える選ばれし者の涙じゃなくちゃダメなの。
気高く、いつも上を見上げて、おばあちゃんの言う天空に近い存在の涙でなくちゃ。」(石動乃絵)

 乃絵さんは「おばあちゃんに涙を天空にもっていってもらった」結果、泣けなくなりました。それを眞一郎君は「思いこみが暗示になった」と言っています。それは恐らく当たっているとは思いますが、おばあちゃんは「悲しさ」、「辛さ」に対して「泣かないで」という思いを込めて「涙」を持っていこうとした筈なんです。ですが乃絵さんは、「嬉しくても泣けなく」なってしまった。これはおばちゃんにとって意図していなかった事であり、そこには乃絵さん自身の意識が介在していて、恐らく、乃絵さんにとって「おばあちゃん」という存在があまりに大切だった為に、「泣いてしまったら、おばあちゃんの気持ちが嘘になってしまう」という強迫観念に近いものになっている為だと考えられます。

 だから、乃絵さんはおばあちゃんの言葉を誤解していて、その言葉には「本当の意味」があり、同時に「本当の涙」と「飛べる」という言葉にも「本当の意味」があると思います。それが恐らく、このtrue tearsという作品を締めくくる要素になってくると思います。それはひとまずおいておいて、true tearsの中で大きな意味を占めている「誰かの涙を貰う」或いは「誰かの涙を拭う」という行為について考えてみると、まず物語開始以前の乃絵さんが小学生の頃におばあさんに拭ってもらった事と、先回眞一郎君が比呂美さんの涙を拭う為に走った事が挙げられますが、この二つに対して行為者(涙を拭う存在)と被行為者(涙を拭われる存在)に分けて考えてみましょう。

涙を貰う存在   涙を貰われる存在
おばあちゃん ○涙を拭う→ 乃絵さん
おばあちゃんにとって乃絵さんは大切な人   乃絵さんにとっておばあちゃんは大切な人

 「涙を貰う事に成功」

涙を拭う存在   涙を拭われる存在
眞一郎君 ○涙を拭う→ 比呂美さん
眞一郎君にとって比呂美さんは大切な人   比呂美さんにとって眞一郎君は大切な人

 「涙を拭う事に成功」

 つまり、「涙を拭う存在」にとっても「涙を拭われる存在」、どちらにとってもお互いが「大切な人」で有る事が、「涙を拭う(=涙をもらう)」為の条件であると言えます。

 しかし、乃絵さんが「涙を拭われる存在」との間にどのような関係を構築しているかを比較してみると、どこかで何かがおかしくなっています。

物語開始以前
涙を拭う存在?   涙を拭われる存在?
乃絵さん ×涙を拭う→ 雷轟丸
乃絵さんにとって雷轟丸は「涙をもらう為の存在」   (どうでもいい存在の筈)
物語開始直後
涙を拭う存在?   涙を拭われる存在?
乃絵さん ×涙を拭う→ 眞一郎君
乃絵さんにとって眞一郎君は「涙をもらう為の存在」   (眞一郎君自身の好意は考えていない)
眞一郎君への恋を意識した直後
涙を拭う存在?   涙を拭われる存在?
乃絵さん ?涙を拭う→ 眞一郎君
乃絵さんにとって眞一郎君は大切な人   眞一郎君にとって乃絵さんは大切な人(のはず)
眞一郎君が比呂美さんの事が好きだと気付いた後
涙を拭う存在?   涙を拭われる存在?
乃絵さん ×涙を拭う→ 眞一郎君
乃絵さんにとって眞一郎君は大切な人   眞一郎君にとって乃絵さんは大切な人ではない(?)
今話
涙を拭う存在?   涙を拭われる存在?
乃絵さん ×涙を拭う→ 地べた
乃絵さんにとって眞一郎君は大切な人   (どうでもいい存在の筈※)

 ※現実世界の地べたは今のところ飛ぼうとしていない。

 このように、乃絵さんは、「涙を貰う」為の条件として、「お互いに大切な人」でなくてはならないのに、乃絵さんはその条件に気付かずに気持ちだけが先行していて、相手の気持ちはお構いなしに「涙」を流してと言っているんです。(眞一郎くんとの恋愛感情でそれの関係に近い所まで行ったんですが。)同様に乃絵さんは、「本当の涙」と「飛べる」という事も同じく誤解していて、少なくとも物語り開始以前は乃絵さんは「涙」とは「悲しさ」、「辛さ」で出るものだと捉えていました。その事は、眞一郎君に「のえがすきだ」と書いてもらったときに、

「今、泣きたいわ。
どうしてかしら、悲しくなんてないのに、とっても、とっても泣きたい。
幸せなんだわ。きっと、幸せなんだわ。」(石動乃絵)

と口にした事から推測できます。ですから、少なくとも物語開始以前の乃絵さんが誰かの「涙」を貰うという行為は、誰かの不幸を願ってしまう事に繋がります。これが恐らく乃絵さんが「呪い」を掛けるという風聞に繋がっていて、「願い」が「呪い」にねじれてしまった結果、、雷轟丸は非業の死を遂げ、眞一郎君は悩み抜いた結果乃絵さんの期待に応えられずに「地べたの死」という物語の結末に到ってしまい、そして今回、地べたもまた乃絵さんによって「無理矢理飛ばされ」ようとしているワケです。

 更に、乃絵さんの「誤解」はそれだけではありません。というか、それこそが今話で一番重要な所だと思うんですが、

「この地上には悲しい事が、辛い事が沢山あるわ。
飛びたい、全てから逃れて自由に羽ばたきたい。
そう願った方がきっと、楽なのよ。
地べた、私が飛ばせてあげる。」(石動乃絵)

 この台詞から、乃絵さんは、乃絵さんの解釈による「本当の涙」と「飛べる」が実は矛盾するという事が分かります。
 乃絵さんは涙を流したい。でも流せないから、「飛べる存在」の「本当の涙」を拭って、その「本当の涙」を貰おうとしていた―――というのが乃絵さんの主張なんですが、乃絵さんのおばあちゃんがそうだったように、「飛べる存在」こそが「涙を拭う存在」なんです。それなのに、その存在から「涙」を流して貰うのはおかしいのです。
 だから、乃絵さんが「飛べる存在」に求めているのは、恐らくは「この地上には悲しい事が、辛い事が沢山ある」から、「乃絵さん自身の涙を拭ってくれる存在」によって乃絵さん自身は流せない「涙」を天空に運んで貰う事に他なりません。けれど、乃絵さん自身はこの事に気付いていなくて、自分自身に「涙を流さない」という「呪い」を掛け、自分にとっての「大切な人」にすら結果的に「呪い」を掛けてしまっているんです。

 だから乃絵さんが「本当の涙」を取り戻す為には、おばあちゃんが持っていった涙は「悲しい涙」、「辛い涙」で、乃絵さん自身は「嬉しい涙」を求めるように気付かせてあげなくてはなりません。
 おそらくそのきっかけになるのが「乃絵さん自身が飛ばそうとしている地べた」と、「乃絵さんの要望で眞一郎が書いた地べたの死」で、乃絵さんは自分が相手に要求してきた事に伴う「罪」を知る事だと思います。乃絵さんの救済は、眞一郎君が「絵本の続き」を書いて本当の「結末」を提示する時に与えられると思うんですが、その結末は予測できません。

本編感想

「私、雪の海って好き。
海行こ。
先行ってるね。」(岩佐比呂美)

 雪をはっきり「好き」と言えるようになった比呂美さん。このように眞一郎君は確かに比呂美さんの涙を拭う事はできました。ですが、麦端高校も蛍川高校も、「比呂美さん&石動純」のカップルをどんな形であり認めています。勿論親友である三代吉君や朋与さんも例外ではありません。

「あのさ、石動乃絵に、呪いちゃんと掛かってなかったって言っといてくれよ。
いいから、いいから、言えば分かるから。
じゃな、俺今日、あいちゃんでバイトすっことになってんだ。」(野伏三代吉)

 恋愛は逆境にあってこそ試されるものだとは思いますが、この逆境を跳ね返す事が出来るのか、それとも元の鞘に収まるのか、私には予測できません。

「俺、昨日交流戦見てたんだ。」(仲上眞一郎)
 
「眞一郎君は麦端踊りがんばって。」(湯浅比呂美)
 
「待てよ比呂美。アイツ―――(比呂美の事本気で――)」(仲上眞一郎)

 交流戦で比呂美さんの為にコートに飛び込んだ石動純君と、飛び込めなかった眞一郎君。

「ちゃんとするって何だよ。
俺、何もちゃんとしてないし。
誰にも、ちゃんとしてないし。」(仲上眞一郎)

 本人も意識している事ですが全くその通りで、「ちゃんとする」と言ったのに、「ちゃんと」できていない眞一郎君と、これ以上なく「ちゃんと」ケジメを付けようとした比呂美さんが対照的です。
 「雷轟丸と地べたの物語」と、「石動純君との決着」、比呂美さんは焦りがあるのか、矢継ぎ早に事を急いで石動純君を振ります。でも、「好きでもない相手」の為にコートに飛び込むなんて出来ないはずなので、石動純君の中にも「比呂美さんが好きだ」という気持ちは芽生えていると思います。眞一郎君が「乃絵さんが好きだ」という気持ちも同様です。

「貴方が好きなのは、私じゃない。
貴方には、あの子以外の事はどうでもいいのよ。
何故分からないの。」(湯浅比呂美)

 だからこそ、全てが分からない。誰が誰に転ぶか最後まで分からない、予測不能です。

 感想を書いていても、まるで泥の上に建物を立てているようなのです。特に今回はそうです。今までも結構的はずれな事を書いてきましたが、今回は本当に自身がありません。

「あれは…別れの言葉…。」(仲上眞一郎)

 だから、乃絵さんの言葉の意味に気付いた眞一郎君がどう出るか本当にわかりません。

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次回予告

 true tears 第12話「何も見てない私の瞳から…」

「綺麗よ、貴方の涙。」
 
「ホントだ、俺何やってんだろ?」
 
「キスしてもいいか?」

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おまけ

「もう一度、友達からやってみよう。」(あいちゃん)
 
「いつかセーター編んであんでもらえるよう頑張るよ。」(野伏三代吉)

 あいちゃんと三代吉君はここが着地点。
 わざわざ公衆電話を使ったのは、三代吉君に取って貰うという意味も勿論ですが「友達から始める」というあいちゃんのスタンスも象徴しています。
 多分、あいちゃんは乃絵さんと会った時の言葉で良い方にふっきれたのだと思います。
 あいちゃんはこれでいい。あいちゃんは笑っていてくれればそれでいいんです。

 これが最後になるかも知れないので言っておきます。

 あいちゃんかわいいよあいちゃん。