「紅」第二巻〜ギロチン〜感想&備忘録
価値観の転覆。悪は悪のみならず、また善は善のみならず。
裏が表に。
表が裏に。
マフィアなどを例にとってみても、一面では無慈悲な暴力や殺戮を行う組織でありながら、弱者を救い、貧しい者に施しを与えるような、別の一面も持っていたりする。そのバランス感覚に長けた組織しか、存続出来ない。ルーシーの言う通り、ただ悪いことをしているだけの組織など、やっていけるわけがないのだ。逆に言えば、どんなに悪い組織に見えても、長く続いていることが、すなわち世界を構築するシステムの一部としてきちんと機能している、という証明になるか。
第二巻を読んだ時点で、ようやく「紅」が何を言いたいのかが分かってきたような気がします。
多分、「世界の裏表」について書こうとしてるんだと思います。
身も心もどうしようもなく「裏」に染まりながらも、それでも「表」でいようとする真九郎と、閉鎖社会の「裏」、宿命と掟に縛られながらも、それでも自分に対して「裏表の無い気持ち」を持ち、他人に対しては「裏表を鋭く見抜く」力を持つ九鳳院紫。真九郎は紫に導かれながら危なっかしく生きていく―――という事を描きたいのだと思います。
崩月夕乃は、「裏」の住人であり、婉曲(裏)にしか真九郎に好意を伝えられない存在であり、村上銀子は「裏」に足をつっこみ、真九郎に恋心を隠している(裏)存在である事を考えると、やはり紫が真のヒロイン。夕乃が「約束を破って」、「表」の授業参観より「裏」の会合を選んだのもやはり夕乃がどうしようもなく「裏」であり「表」に行こうとする真九郎とは相容れない事を象徴しています。
やっぱり主人公はロリコンだ。冒頭で変態ぶちのめしてる場合じゃない、警察は真九郎を捕まえた方がいいと思うんだ。(笑)
以下は壮絶なネタバレだけで出来ています。
作品を楽しみたいなら、悪いことは言わないので原作を読んでください。
ついでにうちで買ってくれると嬉しいかな。(えへ)
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<以下ネタバレ>
九鳳院紫には「裏表」が無い
「あった、これだな。おまえが言ってるのは『おためごかし』だ」
「……は?」
「知らんのか? 真九郎、頼む」
真九郎に辞書を渡し、紫は再びパイを食べ始めた。
「えっと、意味は……『表向きは相手のためであるように見せて、実際は自分の利益をはかること」 読みながら、なるほどなあ、と納得する真九郎。
紫を敵に回すことの恐ろしさを、真九郎も感じていた。
この子は直感で真実を悟る。まやかしが通用しない。
また、「絶対な悪」であるかのように描写されていた「死」、「殺人」、「斬島切彦」、それら全てがひっくり返って「生」、「誅戮」、「切彦ちゃん」となる。
「死」、「殺人」、「斬島切彦」を担う今回の登場人物、「志具原理津」、「悪宇商会(ルーシー・メイ)」、「斬島切彦」、全てに「二面性」が備わっており、それらを主人公・紅真九郎がどうしようもない「悪」でありながら、憎みきれない部分を持っていると感じたのは、彼が世界の「裏」を見つめながらも、「表」で生きようとする姿勢の現れなのだと思います。
同様に、同じ背景を持つ真九郎と理津の対比は、「裏」と「表」を一層明確に分けて描写され、等しく尊い精神を持つという、物事の善悪の多面性を表すと同時に、真九郎が理律の誘いを、また悪宇商会の誘いを断ったのもまた、真九郎は「表」で生きるという決意を表明した事を象徴しています。 そしてここでも「紫」の存在が大きなものになっているのがポイントですよね。
真九郎と理律の対句構造
真九郎は死にたかった。でも今は生きている。
理律は死にたかった。今、死のうとしている。
結果は違っても、二人の望みは同じだ。
真九郎の「命を賭けた願い」
「でも俺、約束したんです」
「……約束?」
真九郎は頷いた。こんな状況なのに、心は静かだ。
きっと、あの子を思いだしているから。
「俺、あいつのこと傷つけて、泣かせたのに……。あいつ、俺を許してくれて、また約束できたんです。だから、今度は、絶対に守りたい」
理津の「命を賭けた願い」
「そんな、大きな声出さないでよ……。わたしには、やることがあるの。やらないといけないことが、あるの……」
静かな呼吸音に交じるように、理津の声は次第に小さくなる。
その口元に耳を寄せ、真九郎は彼女の言葉を聞き取った。
「向こうにいって、ちゃんと、謝らなきゃ……。ごめんなさいって……言わなきゃ……」
真九郎は察する。
理津は、ただ死にたいのではない。彼女は謝りたいのだ、両親に。
そのためには、両親とおなじところにいくしかない。彼女はそう思っている。
志具原理津の二面性
「君、怒らないの?」
「……怒りません」
「何で? こんなつまんない女の、面倒なことに巻き込まれたのに?」
「……気持ち、少しだけ、わかりますから。」
斬島切彦の二面性
「あんたには、ゲーセンでの借りがあったからな。貸し借りの精算はしとかねえと、気分が悪い。だから、今回の件からあんたが逃げても、オレは追わなかったよ」
逃げてもいいぜ、という切彦の言葉は、挑発の意味だけではなかったのか。
無差別に人を殺す非常さ。小さなことも借りと思う律儀さ。そして、渋々ながらも真九郎の言葉に従い、患者と職員たちの避難を手伝った柔軟さ。
よくわからない子だ、と真九郎は思う。
悪宇商会の二面性
海外のニュースに目を移してみる。こちらは派手だ。中でも特に目を惹かれるのは、とある豪邸で起きた殺人事件。ハリウッドの大物プロデューサーが、自宅の豪邸で首を切断された死体で見付かったというもの。豪邸には専属のボディーガードが十人以上もいたようだが、全員が、やはり首を切断された死体で発見された。その大物プロデューサーは、多額の寄付を惜しまない有名な慈善家だったらしく、彼の死を悲しみ、犯人を憎む有名人達のコメントがいくつか載っていた。
「ちなみにその犯人は、悪宇商会の《ギロチン》と呼ばれてる奴だ」
そして紅香は教えてくれた。マスコミの報じない、裏を。
殺された大物プロデューサーは、表向きの顔は慈善家。しかし裏では、貧困層から子供を買い上げ、金持ちに「玩具」として売り渡す組織を運営していたらしい。