おくりびと感想

「おばあちゃん、バイバイ…」(遺族の女の子)

 山形には一時期住んでた事もあって、もし老後に住む所を選べるとしたら山形市かな、というぐらいの山形スキーのSunithaが、「おくりびと」を遅ればせながら見てきましたよ。

 この映画、凄く見せ方が上手く、「葬儀」という、ちょっと避けて通りたいお題だからこそ、ちょっとしたハプニングに思わず笑ってしまうような仕掛けがしてあって、気分が重くならず、中盤の一波乱までコメディタッチに進んでいきます。
 また、主演の本木雅弘さんの「黙して語らず」みたいな芸風や、広末涼子さんのさらりとした演技と非常に親和性が高かったです。
 また、生者死者への心遣いが結晶した「納棺の儀」が始まってすぐでてくるのですが、それが非常に「美しい」のです。死人という日本では古来から忌避されてきたモノであり、劇中でも主人公は「汚らわしい!」と或る人に言われています。けれど、家族にとっては「汚らわしい」なんて事はなく、故人との最後の別れを悼み、惜しみ、そして送り出す、とても大切なものでもあります。
 それが日本特有かどうかは知りませんがそういうのに西洋人は惹かれたのかもしれないとか、アカデミー賞にノミネートされるのも理解できた気もします。

以下激しくネタバレ

 そんなこの映画の表現したかったのは、「たとえどんなにメチャクチャでも、あの人は大切な人だから…」という「決して切れない絆」だったのではなかったかな、と思いました。

 幕が開けると、すぐに白い画面。そこに車のライトが見えて、ここは雪国だと分かります。そんな冬の寒い日、或る人の納棺の儀が行われます。この時点ではその納棺の儀が、コメディタッチな場面もあるものの、あまりに美しく執り行われる事に目を奪われるのですが、それ以外の情報はまだ見えてこずに、「主人公がどんな人でどんな人生を歩んできて、なぜこの仕事に就いたのだろうか」、「納棺の儀に遺族はどう思っているのか」といった、人の「人生の積み重ね」というのは全く分かりませんが、この場面はもう一度出て来て、その時に、「ああ、主人公はこういう背景で、こういう辛さに耐えて、こう思いながらこの仕事をしているのだな」、「(ちょっと変な)故人に対して家族はこんな風に別れを受け止めていたのだな」と、分かってきます。つまりは「人生の積み重ね」という情報を得ることで、「納棺」というケガレは、180度変わって途端に、「たとえどんなにメチャクチャでも、あの人は大切な人だから…」という心の奥底の感情を見出すモノに印象がポジティブなものに変わってしまいます。

 これ以上書くと粗筋になってしまうので辞めておきますが、「たとえどんなにメチャクチャでも、あの人は大切な人だから…」という「人生の積み重ね」こそがこの映画の本質だったと思います。

 もし、私が、あいばさんのランゲージダイアリー的、2008年ベストとか、RubyGillisさんの2008年 個人的アワードみたいなのをやるとしたら、Sunitha今年最高の邦画最高傑作の最有力候補にしたいぐらい勢い、そんな作品でした。ホントに美しいので、上映しているうちに見に行っても損は無いと思います。おすすめ。

おくりびと [DVD]

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「おくりびと」オリジナルサウンドトラック

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 納棺の後に肉食するシーンは、深いよねぇ……。