DARKER THAN BLACK 黒の契約者感想第9話「純白のドレスは、少女の夢と血に染まる… 前編」感想



 感想第9話「純白のドレスは、少女の夢と血に染まる・・・ 前編」感想

 今回は「霧原さんの動機」のお話。
 先回までの「契約者」側の群像劇はお休み。
 今回は「一般人」代表の霧原さんの掘り下げ回です。
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 まず、序盤に未咲さんのお父さんが核心的な事、今回のテーマを言語化するのですよ。

「お前、どうして警察に入った?」
「警察に入って弱い人を助けたい、そう言っていたな。」
「だったら、出世するのは悪い事じゃない。」

 そしてそれに逡巡を見せるものの、うまく言語化できない霧原さん。

 恐らく霧原さんは、全てが書類で済まされて、「人間」が存在しない「官僚」よりも、「現場」という「人間」が伴う仕事を本質的に重視しているのでしょう。
 それを象徴するように、父親が提示したのは、「辞令」「客寄せパンダ」というような、「人間」のいない世界でした。行く行くは彼女も官僚へと進むかも知れませんが、今はまだ、霧原さんは「人間」と接して、「弱い人」「心」を救いたいと思ってるんだと思います。

「事件は会議室で起こってるんじゃない!現場で起こってるんだ!」(ちょっと古い)

 その文脈で読むと、「書類(人間性無し)」より、「現場(人間性有り)」を重視している霧原さんは、今回も霧原さんを見捨てられなかったりと、「契約者らしい合理性(人間性無し)」よりも、「人間くさい感情(人間性有り)」を取ってしまう黒<ヘイ>さんと同じ方向を向いていますから、追う側と追われる側なのに、よく似ているんですよ。

 私は今まで、霧原さんがメインヒロインだと思っていたので、黒<ヘイ>さんと霧原さんの邂逅が物語の転機になるのだと思ってましたが、このタイミングで持って来たという事は、オープニングに出てくる怪しげな緑色の髪の子か、黒<ヘイ>さんの妹である白<パイ>さんがメインヒロインという位置づけなのかもしれません。
 何であれ、全ては来週。
 霧原さんが、黒<ヘイ>さんの正体を知って、その秘密を共有できなければ、彼女がメインヒロインという線はほぼ無くなります。

 ちくしょう、BONESさんには、これまでの例に洩れず、やっぱりメガネ娘を冷遇し続けるのですか・・・。
 嗚呼、霧原さん・・・・・・。


 さて本編、父親と別れた後、霧原さんは旧友であるアリス・王と再会します。
 そもそも、わざわざマフィアの本拠地の真下で食事をしたのも、霧原さんがアリスさんを親友だと思っているからこそ、変に偏見を持って避けたりするのが嫌だったのかもしれません。
 けれど、見直してみると、この霧原さんとアリスさんの再会も何かおかしいのです。

 何故、アリスさんは、自分の家なのに、車で乗り入れて来たのでしょうか?

 その答えは、アリスさんは自分に愛情を注がずに政略の道具としか見ていない父親が嫌いだからでしょう。

 だから、父親に反抗する為に、わざわざ「洋装」をして、見せ付けるように霧原さんにチャイナドレスを着せたのでしょう。或いは、父親に対する良心、最後の警告のつもりだったのかもしれません。

 歪んだ父娘の関係、その歪みは、嘗ての親友同士にも影を落とします。二人が思い出すのは同じ思い出、「生まれた時から決まっている将来」に何の希望も持てず、「生まれ」の為に、友達と呼べる存在もいなくて、孤独の中でタバコに耽って自分を蔑ろにしていた高校時代のアリスさんに対して、唯一正面からぶつかって来てくれたのは、どこまでもまっすぐな霧原さんでした。

霧原さん
「父親なんか、関係ないじゃん!」

 人を偏見で見たりせずに、「タバコなんかやめなさい!」と、気遣ってくれて、今も全く変わらないまっすぐな霧原さんに初めて親愛の情を抱いたアリスさん。

アリス
「変なヤツ・・・。」

 しかし、時は流れ、同じ思い出を共有した二人、頬を赤らめる霧原さんと、冷たい目を見せるアリスさん、同じ思い出から沸き上がる感情は乖離していたのでした。

 霧原さんとアリスさんの友情は本物だったのでしょう。だから、すぐに霧原さんを殺さなかったのでしょう。
 もしも抱いていたのが「殺意」だけなら、霧原さんの一人ぐらい、いつでも殺せたのです。
 
 ただ、「闇」の中でしか生きていけず、「未来の可能性」も何も無いアリスさんは、「光」の中で、「未来の可能性」に溢れた霧原さんを、嫉妬してもいたんでしょう。
 アリスさんが霧原さんに麻薬を勧めた時も、そんな「闇」にしか生きていけない自分を知って欲しい、アリスさん自身の「苦しみ」を霧原さんにも味わわせたいという、複雑な感情の発露だったのでしょう。

アリス
「これでも、痛みも悲しみも消えて無くなるの。素晴らしい光に満ちた私だけの世界が始まる。」

 けれども、アリスさんは決して「友情」を忘れてなくて、それが霧原さんに向けた銃の引き金を引くのを一瞬だけ躊躇わせてしまうのです。その御陰で霧原さんは、例によって霧原さんを見捨てられなかった黒<ヘイ>さんに辛くも助けられる事が出来たのですよ。

アリス
「さよなら、未咲。・・・・・・さよなら。」

 おそらくアリスさんは、霧原さんを殺す事で、嘗ての自分を消して、新しい「自分」になりたかった、「感情」を持たない「契約者」になりたかった。だから「契約者」である魏志軍に惹かれて、彼の反乱に荷担したのではないでしょうか。
 でも、「人の心」を救いたい霧原さんと、「人の心」を捨てられないアリスさんにはまだ和解できる余地があります、というか、来週は、「人の心を救いたい」という霧原さんの「初心」を確認する事になるのでしょう。 今までの黒の契約者の前科から、アリスさんの運命は決まっていますが、最後に「友情」に帰って来る瞬間を願っております。

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黒<ヘイ>
「あ、どうも。」

 最近、めっきり出番の無い黒<ヘイ>さん。主人公・・・だよね?