黒の契約者第19話感想「あさき夢見し、酔いもせず・・・(前編)」
今回のテーマは「酔う」。黄<ホァン>さんは「酔う」が「辛い過去を忘れる」を意味する暗喩から、「安らいで眠る」方向へと転換する方向に進むんじゃないかなと思います。
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黄<ホァン>(本名:久能潔) 〜あさき夢見し、酔いもせず〜
今回使われている「酔う」は黄<ホァン>さんにとっては、「辛い現実を忘れる」に暗喩されて描写されています。だから、「酔わない」黄<ホァン>さんは「辛い現実」を忘れない事を選択した人。でも、本当は酔いたい(=忘れたい)、だけれども、酔っちゃ(=忘れちゃ)いけないから、歯を食いしばって過去と向き合い続けている。そして、死んだ磯崎さんもまた「酒に酔わない(=辛い過去を忘れようとしない)」人で、磯崎さんの分まで決して酔えない、酔おうとしない黄<ホァン>さんが渋い。
また、冒頭の黄<ホァン>さんの、まるで夫婦のように所帯じみた夢が示すように、黄<ホァン>さんはまだ志保子さんの事を信じているからこそ、磯崎さんを殺した理由を聞こうとしているんですが、必ず黒<ヘイ>さん達を「家族」と認識する方向に動く筈なので、岸田さんには何か理由があって、その理由が明かされる事で黄<ホァン>さんの「契約者=人じゃない」という認識が解消される筈なんですよ。
その時こそ、黄<ホァン>さんが本当に「酔う事ができる描写」がされる筈。ただ、それは「忘れる」為に「酔う」のじゃなく、「家族」という存在に安らぎを感じたからこそ「酔う」という、暗喩が肯定的な意味に覆るんですよ。最近の例だとノーベンバー11が、第16話で、仲間パワーで勝利した後に、タバコを初めて楽しそうに吸っていたみたいにね。
酔えない黄<ホァン>さん
「一度くらい見てみたいよね、久野さんが本当に酔ったトコ。」(磯崎静香)
「酔えねえように出来てるのさ。」(久能潔)
決して忘れない黄<ホァン>さん
「私達の組織に入りませんか?それしか無いんです。記憶を消されずに済む方法は。」(男)
磯崎さんも忘れない人だった。
「あの人もそうだった。夫も、磯崎も酔わない人だった。」(磯崎静香)
忘れたい、でも忘れない。忘れちゃいけない
「まあ、体質もあるんでしょうかね。たまには有りますよ。べろんべろんに酔えりゃどんなにいいかって。」(久能潔)
岸田志保子 〜色は匂へど散りぬるを〜
岸田さんは、少なくとも10年前までは「酔えた人」、つまり、忘れたい事は忘れた方がいいと思っていた人。でも、岸田さんが受けようとしていたオーディションの題が「色は匂へど散りぬるを」と、今回のタイトル「あさき夢見し、酔いもせず・・・」に繋がっていたりと、岸田さんも黄<ホァン>さんと同じように、「決して忘れたくない何か」を自分一人で背負っていて、他の人には忘れて幸せに生きて欲しいという気持ちがある/あったみたいです。
「知ってればいいってもんでもないでしょ?知らない方がいいって事もあるんだし。ね?」(岸田志保子)
「知らないにも程があるってもんだ。なあ、志保子。」(黄<ホァン>)
「本当にそうなのかな。私、情が薄いんじゃないかな。」(磯崎静香)
「しょうがねえさ。忘れちまったもんは。(忘れちまった方が幸せな事もある。)」(久能潔)
岸田さんが何故磯崎さんを殺して、久能さんを殺さなかったのか、単に能力が連続して使用出来なかったから、またはそれを理由に久能さんを殺さなかったのか、久能さんに会った時点で、既に今の黒<ヘイ>さんのように、自分を偽る人間だったのか、など、岸田さんの真意は現段階では分かりませんが、*1「演劇の役者を志望」していた岸田さんと、「変身能力」を持つ教主のアルマさんは潜在的に対立項なので、前項の黄<ホァン>さんの解消と絡んで岸田さんが肯定される方向で進む筈です。
岸田さん | 忘れたくない過去を自分一人で抱えている(=肯定されるべき黄<ホァン>さんと同じ) | 元演劇の役者志望(今の生き方も芝居かもしれない) |
アルマさん | 信者達に救済という名で盲目的に「忘れろ」という教主のポジション | 変身能力 |
磯崎さん
磯崎さんは、何気なく人に気を使える人。最後の最後までそうだっただけに、亡くなってしまったのが本当に悲しい。奥さんの静香さんも同じくらい優しい人。それだけに、いまの静香さんの少し疲れたような姿が痛々しいです。静香さんも、何らかの形、例えば「昨日、夫の夢を見たの」みたいな形で記憶を取り戻して「決して忘れちゃいけない事がある」を体現してテーマ的に肯定されるんじゃないかな。
「いや、いいよ。駅までなら分かるって。三度目だぜ。今度は迷わん。」(久能潔)
「こっちも酔い覚ましで。」(磯崎さん)
「ったく。」(久能潔)
「そんな事無いですよ。十分魅力的じゃないですか。」(磯崎静香)
「本当にそうなのかな。私、情が薄いんじゃないかな。」(磯崎静香)
「しょうがねえさ。忘れちまったもんは。(忘れちまった方が幸せな事もある。)」(久能潔)
次回予告
黒の契約者第20話「あさき夢見し、酔いもせず・・・(後編)」
黄<ホァン>さんの過去が決着する。救いの無い世界だからこそ、誰もが救われて欲しいと思います。ただし、他人から押しつけられる「救済」に意味はありません。そこに書かれているのは、所詮は「教団の幸せ」なのです。黄<ホァン>さん達には、「家族の幸せ」に着地して欲しいです。
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*1:岸田さんが「退院したらそれなりにペナルティ払ってもらうから。」と言っていますが、「ペナルティ」が「対価」の暗喩だとすると、この段階で既に契約者、または契約者の萌芽はあっととも取れます。