知里真志保さんのアイヌ語入門はいい本だけど・・・

 前にトンデモ語学本を紹介してしまったので、今度は真剣にトンデモ本に喧嘩を売ってる本を紹介してみましょう。

アイヌ語入門―とくに地名研究者のために

アイヌ語入門―とくに地名研究者のために

 アイヌ語入門と銘打っていますが、アイヌ語がさっぱり分からなくても大丈夫。私もアイヌ語はさっぱりですが、ニヤニヤしながら読んでました。

 因みに、この本のタイトルはちょっと筆を尽くしていないので、私が勝手に付け加えると、

アイヌ語も知らないクセにアイヌ語で地名を解こうとしてる自称専門家のバカっぷりを笑うアイヌ語入門」

とでもするのが正しいと思います。

 この本の著者、知里真志保さんは、アイヌ出身の方で「日本人」としての立場ではなく、「アイヌ」としての立場で、インチキ学者、例えば「農学博士のK」というような門外漢が、アイヌは誰も反論しない事をいい事に、的はずれな事を本にしてふんぞり返っているのに義憤を感じているワケで、実に苛烈な文体で書かれています。

本文もまあそんな内容です。ちょっと引用してみましょう。

 アイヌの古老に日本語を発音させても、電車が「テイシャ」になり、感心が「カイシン」になり、選手が「セイシュ」になり、戦争が「セイソウ」になり、山椒が「サイショ」になるぐらいのものであり、先生が「セイセイ」になるといったぐあいである。したがって、ルンセは「ルィセ」となるはずで、それが古い合成語であるならばなおさら、「ルンセ」などという形で残るはずはないのである。

 要するに、/ns/が/is/になるのに、「ルンセ」という語が存在すると信じている人達は勉強し直せと言っているんですが、そういったアイヌ語の基本も知らずに単語を当てはめるという馬鹿げた事をしているのは、シャレと同レベル、いや学術書と銘打っている以上それ以下、ぐらいの気持ちで書かれていると考えて下さい。

 流石に文体がヤバイと感じたのか、山田秀三というアイヌ語地名では有名な方、この方は「農学博士のK」とは対極に位置する科学的にアイヌ地名を調査された立派な方が、附録で精一杯フォローしています。

 この本を読んでいると、正しいだけじゃダメなんだと言う事、「人に読ませる技術」が大事なんだと言う事が切実に痛感出来ます。そうそう、忘れてましたけど、学術書としては素晴らしい出来の本ですよ?