「紅」〜醜悪祭(上・下)〜感想&備忘録

 九鳳院紫の幸せに貢献するのは、紅真九郎の義務であり希望。
 やるべき事と、やりたい事が、自分は完全に一致している。

「わたしの夢は、真九郎を幸せにすることだ……」

 「紅」〜醜悪祭(上・下)〜で設定されている着地点は「言語化」です。
 その為に、物語に意図的に「言語化」の種があちこちに蒔かれています。
 また、「真九郎と紫」の関係を真九郎が明確に意識する為に「瀬川早紀・静之姉妹」が登場し、「一緒にいなくてはダメなんだ」と真九郎が明確に意識し、紫からの言葉(どうみてもプロポーズ)に対して、真九郎がどう答えるのか――――なんですが、「紅」〜醜悪祭(下)〜を既に読まれた方は既に御存知だと思いますが、上下巻の筈なのにまだ終わってません。
 目次を読むとたまにネタバレがある場合もあるので、私は、目次を見ないで本文にいきなり入るんですが、最後にいきなり「アニメ『紅』第一話」の脚本と、「巻末特別企画」として「『紅』用語辞典」と「教えて! 銀子の『紅』ゼミナール」が出てきた時は本気で驚きました。

 本来存在すべき原稿が無いので、急遽特別企画で、文庫本として最低満たすべき頁数を埋めたような、そんな感じ。
 どうしたんだろう、片山先生…。

紅 醜悪祭 下 (集英社スーパーダッシュ文庫 か 9-7)

紅 醜悪祭 下 (集英社スーパーダッシュ文庫 か 9-7)

「真九郎へ迷わず告げる言葉」を持つ紫

「……おまえの夢って、何だ?」
 九鳳院紫は、答える。
「わたしの夢は、真九郎を幸せにすることだ……」
 それが彼女の抱く夢。
 二人は、お互いを幸せにしたい。そう願っている。そう望んでいる。だから、どちらも欠けてはならない。失ってはならない。消えてはならない。死んではならない。
 こんなくだらないところで、人生を閉じては、いけない。

「紫への言葉に出来ない言葉」を持つ真九郎

「彼女、とても面白い子ね。紅くんの何なの?
「何でしょうかね……」
 なかなか鋭い質問だと思いながら、真九郎は曖昧に笑って誤魔化した。

 真九郎自身も、実はよくわからなかった。自分にとって彼女がどういう存在なのか、言葉では上手く表現出来ないのだ。夕乃は、「歳の離れた友人ですよね」と言う。銀子は、「あんたの娘みたい」と言う。真九郎は、そのどちらも少し違うような気がする。
 では、正しくは何と表現するのだろう?
 何度も考えたけれど、答えはまだ見つからない。

「真九郎への言葉にしなくてもいい言葉」を持つ銀子

そうしてみんな、いなくなった。残ったのは、村上銀子だけだった。真九郎とずっと友達でいてくれたのは、村上銀子だけだった。初めての友達が、最後まで残った。どうして自分から離れないのか、と真九郎は訊いてみたことがある。銀子はどうでも良さそうな顔で、こう言った。「そういうことは、言葉にしなくてもいいのよ」と。

「瀬川静之への言葉にしたくても言えない言葉」を持つ瀬川早紀

 姿を消した瀬川早紀は、自分のことを捜さないで欲しいと頼んだ。
 真九郎は彼女の意志を汲み取り、その通りにしようと思った。
 でもそれでは、静之の気持ちはどうなる?
 たった一人の家族を失う彼女の気持ちは、いったいどうなってしまうのか?
 瀬川静之は、賢い子供である。姉に何か事情があることも、何となく察していると思う。それでも彼女は頼んだのだ。
 一人で五月雨荘までやって来て、真九郎に頼んだ。
『もめごとしょりやさん、お姉ちゃんをさがしてください!』
 姉のことが大好きだから。どんな事情があろうと、一緒にいたいから。静之は、真九郎に頼んだ。そして真九郎は、それを聞き入れた。必ず捜し出すと約束した。

「真九郎へ何でも言ってしまう言葉」を持つ崩月家の女性達

 崩月家の女性は、みんな笑顔で自己主張する。
 冥理も夕乃も千鶴も、とびきりの笑顔で言いたいことを言う。
 そういう家風なのだろう。男にとっては、恐るべき家風だった。