「ネギま!」のラテン語についてのどうでもいい話



 いよいよクライマックスに入りつつあるネギま!ですが、いつも気になっていることがあります。
 本編にはカケラも関係無い話になりますが、「日本語のラテン語表記」についてです。

 ネギが使っている魔法は、発音もほぼ完璧な古典ラテン語、たまに古典ギリシャ語で詠唱されているのですが、そこに日本人の人名が入るとき、ちょっとこれは・・・と思うときがあります。


 桜咲刹那ラテン語で表記すると、"SACURAZACI SETUNA"となります。

 注:ラテン語では、"k"の音は"C"で書き、外来語の時のみ、"K"を例外的に使用します。
 ですから、そのままローマ字読みして、「サクラザキ セトゥナ」と読めば良いのです。(ザは正確には[za]ではありませんが、日本語もラテン語も区別しないので良しとします。)

 ここで、「セトゥナ」「トゥ」というのは、ラテン語には、[tsu]の音が無いから、ということなのですが、ちょっと待ったと言いたいです。


 ラテン語では、"ts"や、"ds"を、"s"で表記していたので、明確に”ツ”とは読めなくても、”s”という表記で"ts"を表すことは可能なのです。

 ここでちょっと待った、日本語は昔、”ツ”を[tu]と発音していたので、「トゥ」でもいいんじゃないの?

 という疑問を持った人もいると思います。でも、それは却下です。

 古い日本語を引き合いに出すのならば、「トゥ」だけでは無く、他の部分も同じ年代の発音に読み替える必要がある上に、「刹」の「ツ」は、日本語の歴史において、ただの一度も"tu"とは発音されなかったからです。

 「ツ」の発音が[tu]から[tsu]に変化し始めたのは、大体、室町時代頃という事になっています。
 ですから、「トゥ」を古い日本語の発音という点から許容する場合、古い日本語の読みに直す必要があります。
 ですが、日本語の発音体系がある程度はっきり分かるのは、万葉仮名を使っていた奈良時代と、ポルトガルの宣教師がアルファベットで日本語を写した資料がある室町時代の後期です。

 まず、室町時代後期の「桜咲刹那」は、ポルトガル語表記では、恐らく、"Sacurazaki Xetsuna"と書かれ、「サクラザキ シェツナ」と読むか、それより一昔前は、”Sacurazaki Xetna”と書かれ、「サクラザキ シェトゥナ」と読んだと思われます。
 「せ」を「シェ」と読んでいるのは、その当時の日本語の京都方言を基本にした場合で、関東では「セ」とも読んでいたようですが、当時の関東方言の体系は当時の資料が不足していて、あまりはっきりしていないので、考えないことにします。

 また、更に一昔前の”Xetna”「シェトゥナ」の部分は、「刹」は漢字音であり、この場合の「せつ」は、"Xet"("tu"ではない。)と読んでいた事が知られています。

 ですから、「セツナ」の「ツ」を[tu]と読むのは、日本語の歴史でも、ただの一度も無かった事が分かりますので、日本語の歴史から、というのも、否定されます。

 シャーロックホームズは言いました。
まったくありえないことをすべて取り除いてしまえば、残ったものがいかにありそうにないことでも、真実に違いないということです。

 つまり、「ネギま!」の作中のラテン語は、あくまで現代日本語を基本にしているという事実だけが残ります。

 私の結論としては、現代日本語を、古典ラテン語で写したと仮定した時「桜咲刹那」 をどう書くかと言うと、共通語を含む関東方言を基本とした場合は、"SACURAZACI SESNA"と書き、刹那の出身地である関西方言を基本とするならば、"SACURAZACI SESUNA"と書くべきではないかと思います。

 まず、「ツ」を"s"で書いているのは、既に述べましたように、”s”が[ts]という音素も表していた時代があったという事実に基づくものです。
 次に、関東方言を基本としたとき、「ツ」を”su"と書かないのは、関東方言のウ段は、[u]よりも、[ɯ]に近く、母音の無声化を除外しても、外国人はしばしば子音単独と聞き取る為です。(一方、関西方言のウ段は、個人差はありますが[u]と殆ど同じなので、"su"と表記するワケです。)
 ましてや、ラテン語では、[a]、[e]、[i]、[o]、[u]の五つの母音しかありませんから、ラテン語ネイティブを仮定して、彼らが桜咲刹那を音写すれば、ほぼ確実に「ツ」は"s"、"su"となった事でしょう。

 よって、"SACURAZACI SESNA""SACURAZACI SESUNA"という表記が採用される筈なのです。

 でも、ネギの出身はウェールズ地方で、英語とウェールズ語、どちらも喋れるかも知れないので、"SACURAZACI SETUNA"と聞こえたのなら、それまでの話ですけどね!(台無し)