true tears 第10話感想&備忘録「全部ちゃんとするから]

 今回の展開が意味するのは、「9話以前のtrue tears」と「10話以前のtrue tears」が全く異なる「構造」を持っている事を意味しています。
 先回の感想で、

 今回は、全ての登場人物が「同じスタートライン」に立つ、true tearsという物語の「本当の始まり」の話でした。

http://d.hatena.ne.jp/AlfLaylawaLayla/20080305/1204728167

と、書いたんですが、まさか「ここまで徹底的に」それ以前の「構造」を破棄してくるとは思ってもいませんでした。
 今までの話では、「年上」であるあいちゃんと石動純君が「導き手」となって牽引して「物語の展開」を先んじて進んで、「パワーバランス」の均衡の破壊が起こっていく様を描写していたんですが、その「導き手」が「導き手」としての役割を失い、これまで導かれるだけ(翻弄されるだけ)だった眞一郎君と比呂美さんが率先して「物語の展開」を動かしていて、「パワーバランス」が完全に壊れて「眞一郎君と比呂美さん」の新しいカップルと、それを「絶対に」認められない抵抗勢力の4人が対立するという構造に変化しています。
 私が今まで頭の中で描いていた「展開予測」を全て白紙に戻さなくてはいけなくなる程の破壊力。普通、1クールの中に第一部と第二部を設けるアニメは大抵、展開に無理があったり、描写が薄っぺらなモノになりがちなのですが、true tearsはそれを難無く、そして自然にやってのけている。とんでもない作品です、true tears

 次の展開が全く予測出来ない!

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本編感想

 みなさん、ここで問題です。雪が解けたら何になるでしょう?




 「春」になるんです。





 他の登場人物達が全く関知し得ない場所で、「到底認められない事態」が発生しています。それは勿論「眞一郎君と比呂美さん」の急接近。
 何故認められないか?それは、他の登場人物達が「初恋」を完全に破壊されたというのに、眞一郎君と比呂美さんだけが「初恋」を成就しているからです。

 という訳で、眞一郎君と比呂美さんが接近したものの、いつまた破局するか予測できないのがtrue tearsの恐ろしさ。

眞一郎君&比呂美さん

 冒頭でいきなり描写される「気持ち」が一致している描写された眞一郎君と比呂美さん。

「兄妹じゃなかった。」(仲上眞一郎)
 
「兄妹じゃなかった。」(湯浅比呂美)

 また、「雪かき」を率先していた比呂美さん。「雪が嫌い」だと言った比呂美さんの中の蟠りは、「兄弟じゃなかった時点」で、既に氷解していて、冒頭の「雪かき」はそれを象徴していると捉えていいと思います。

 更に、、比呂美さんが眞一郎君の部屋を尋ねていって「家を出る事」を告げ、更にもう一度眞一郎君が比呂美さんを訪ねていったのは、眞一郎君が比呂美さんの部屋を尋ねていった第5話「おせっかいな男の子ってバカみたい」と同じ状況を「やり直している事」に他なりません。
 そして挿入される「祭りの夜の思い出」。この「祭りの夜の思い出」は「変わらない気持ち」を確かめ合うガジェットで、やはり第5話「おせっかいな男の子ってバカみたい」で眞一郎君が「ずっと覚えていた(=ずっと好きだった)思い」に対して、比呂美さんが「ずっと覚えていた(=ずっと好きだった)思い」を応えた事を意味します。

 でも、一度「関係性をゼロ」にして再び始まる新しいtrue tearsの幕開け。
 だから、この「別れ」だけは避けられない。

「きっと明るい場所に戻って行けるって。
でも今はもう、それは望んじゃいけない事だから。」(湯浅比呂美)
 
「比呂美、俺…」(仲上眞一郎)
 
「行くわ…」(湯浅比呂美)

 でも、第5話「おせっかいな男の子ってバカみたい」の「やり直し」が、「ずっと好きだった思い」を二人で取り交わして、それでもなお「悲しい別れ」で終わるなんて有り得ない。あの時は、眞一郎君が「比呂美さんの涙を拭う役割」を石動純君に託すという「自分には何もできない」という考えだったのが、一転して、「比呂美さんの涙を拭う役割」に変わっていた。眞一郎君は既にバイクの事故の一件で「失う怖さ」を知ってしまっているし、これまでの事で強く成長していたのです。

「俺、バカだ!

俺は、できるのに!比呂美の、涙を!

それなのに、何を迷って!

俺、俺!

お前が!」(仲上眞一郎)

 そして、比呂美さんの心を象徴するように「溶けかけの雪」が解けて、比呂美さんが「嬉しくて流す涙」が美しい。
 というワケで、眞一郎君と比呂美さん、今まで「抱いていた気持ち」は二人とも同じだったのにすれ違い続けて来た二人の気持ちが噛み合って、「比呂美さんの涙を拭ってあげられる」ようになるという、これ以上無いという位に比呂美さんに幸せが訪れるのですが、「今更そんなのは許さない!」と叫ぶかのように二人の周囲では止められない「流れ」が既に出来上がっていた――というのが凄い。
 嗚呼、幸せなのは二人ばかりなり。

 ここまでポジティブな描写をされていて、「眞一郎君&比呂美さん」以外の組み合わせがあるなんて、「普通の作品」なら考えられないんですが、true tearsは既に、「とんでもない作品」です。全く油断出来ません。恐らく、眞一郎君が踊る事になる、「祭り」が象徴的イベントになっていて、再び繰り返される「祭りの夜」で、色々なモノが精算される事になるとは思うんですが、さて、どうなるか。

 ところで、比呂美さんの「涙」が取り敢えずも拭ってあげられたんですが、その間に眞一郎君がずっと悩んでいた「飛べない眞一郎=飛べない雷轟丸」という問題がこの事で解決したのかは不明です。何しろ、一話の中で何度も「さあ飛ぶぞ、雷轟丸はそう思いましたが、その時、お腹がぐうっと鳴ります。」と口にしているぐらいですから。次回果たして眞一郎君は飛べるようになっているのでしょうか?

あいちゃん

「もう眞一郎の手は借りない。
私、眞一郎を卒業する。」(あいちゃん)

 物語の導き手であるあいちゃんは、他の登場人物に先駆けて次の展開に進みます。それは「嘘の関係」と「本当の気持ち」の精算。

 嘘の関係  :三代吉君との関係
 
 本当の気持ち:眞一郎君への思い

 それに伴って、あいちゃんは乃絵さんにお礼まで言って「眞一郎君と乃絵さん」の仲を認めようとしています。

「知ってる。石動乃絵ちゃん。
眞一郎の初めての彼女。」(あいちゃん)

 まずは、「眞一郎君と比呂美さん」の仲を認められない人物が一人。

乃絵さん

「そんなもの、ある訳無いわ。
そんなものがあったら、私が…」(石動乃絵)

 先回乃絵さんは、他の登場人物に大きく遅れて「好きなモノを好きでいられない」状況を初めて体験する事になりました。幸福な時間がついこの間まで続いていただけに、その落差は乃絵さんを強く苦しめる事になります。面白いのは、ついこの間、兄である石動純君が同じような事を言っているんですよね。

「そんな事、よくあるだろ?
自分の気持ち、理想通りにコントロールできたらどんなに楽か知れないさ。」(石動純)

 今はまだ、「眞一郎君と比呂美さん」の仲を認めようと耐えていますが、あいちゃんを始めとする他の登場人物がそうであったように、一度芽生えてしまった「気持ち」を抑える事などはできません。他の登場人物に遅れて、「眞一郎君への思い」が再び鎌首を擡げる事になる事は確実です。

「どんどん埋もれていく。
どんどん、どんどん。
私に捧げてくれた眞一郎の好きが。
会いたい、会いたいわ。」(石動乃絵)

 それを象徴するように、「天空の食事」を食べない「地べた」。
 乃絵さんにとっては、「地べた」と「比呂美さん」は同一存在として認識されていますから、ついこの間まで愛情を抱き書けていた「地べた」が乃絵さんの思った通りに動いてくれない事は、それは即ち、乃絵さんと比呂美さんの仲が最悪の状態に陥った事を意味します。

 こうして「眞一郎君と比呂美さん」の仲を認められない人物がまた一人。

三代吉君

「俺、もう大丈夫だよ。石動乃絵に誰も好きにならない呪いを掛けてもらったんだ。
俺、愛子に笑っててもらいたいからさ、
愛子は、笑顔が一番だからな!じゃ。」(野伏三代吉)

 第10話にして三代吉君と乃絵さんの接触イベントが発生。あいちゃんが眞一郎君のことが好きだった事を知って、必然的に三代吉君と眞一郎君の間に疎隔が発生し、その為に、三代吉君は眞一郎君と比呂美さんの間に起こっていた事件を知らないままに、「眞一郎君と乃絵さん」の仲を認める形で、失恋したあいちゃんをこれ以上苦しませない為に、「好きなモノを好きでいられない」状況を受諾し、「呪い」で無理矢理自分を納得させようとします。

「石動乃絵、結構いいヤツだな。一応報告。
じゃ、俺行くわ。」(野伏三代吉)

 でも、状況は悉く三代吉君を裏切ります。眞一郎君と比呂美さんの間にあった蟠りが解けて、既に急接近を遂げています。これでは折角「眞一郎君と乃絵さん」の仲を認めた三代吉君の立場が無い。これはもう「認める」、「認めない」を通り越して怒るしか無い。 true tearsでは、一度自分の「気持ち」を相手に「(必ず声に出して)はっきりと」告げて関係性を崩壊させるイベントを経る事が重要な要素を占めています。例えばあいちゃんの告白や、比呂美さんの「兄妹疑惑」がそうですね。
 それを経ないと、次の展開に進めない。その文脈では、三代吉君は自分の「気持ち」をはっきりと口にしていて、尚かつ乃絵さんによって補強されています。

「やだ、俺、絶対やだかんな。」(野伏三代吉)

「そんなもの、ある訳無いわ。
そんなものがあったら、私が…」(石動乃絵)

 「眞一郎君と比呂美さん」の仲を認められない人物がまた一人。

石動純君

 石動純君は乃絵さんを悲しませない為に、「乃絵さん&眞一郎君」の仲を無理矢理にでも維持しますが、多分それだけではなく、実際はそれだけではなく、自分でも気付いていないだけで比呂美さんに惹かれ始めている、「嘘から出たマコト」なんだと思います。(その割には、10話を経過してもなお一向に直截的な描写がされていないので、半信半疑という所です)石動純君もまた、「乃絵さんを悲しませた事」、「比呂美さんを奪った&ぬけぬけと付き合い出した事」に対して、眞一郎君に対して半ば当て付けじみた「怒り」を炸裂させる事になるのでしょう。そしてそれはとりもなおさず、石動純君自身が自分の気持ちと冷静に向き合う事に繋がります。
 三代吉君の所でも書きましたが、true tearsでは、一度自分の「気持ち」を相手に「(必ず声に出して)はっきりと」告げて関係性を崩壊させるイベントを経ないと、次の展開に進めません。

「言っただろ、別れるのは困るって。
俺、承諾出来ないからな。」(石動純)

 そう考えると、石動純君の物語の「導き手」としての役割は前半で終わっていて、「導き手」としての役割はあいちゃんに全て委ねられていると考えて良いと思います。そして、今まで展開の「主導権」を握っていた石動純君は、乃絵さんにも、比呂美さんにも「本当の気持ち」を口にしていない事から、一挙に「一番流れに乗り遅れた人物」に格下げです。いずれ「乃絵さんへの思い」を整理し、「比呂美さんへの思い」を精算しなくてはいけませんが、取り敢えずは「眞一郎君と比呂美さん」の仲を認められない人物がまた一人。

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次回予告

 true tears 第11話「あなたが好きなのは私じゃない」

 それにしても、true tearsの次回予告は、確信犯的な悪意でできていますね。来週まで心配でなりません。

おまけ

 眞一郎君と比呂美さんが「兄妹」ではないと言う事になりましたが、これってもしかして、石動純君に「俺もそうだったら」と思わせる為にあるのでしょうか?
 しかし、良くできた設定と構造です。

 …ところで、本当に「兄妹」じゃないんですよね?本当?本当なんですよね、比呂美さんに「本当に?」と言われて目を伏せたのは、あれは「寂しくなるな」って表情でいいんだよね?信じていいんだよね?ね?